『じゃあ、あんたが作ってみろよ』「化石母」の苦悩と成長が涙を誘う…IWGPにも出演した名脇役「池津祥子」の見事な存在感の画像
ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(C)1995-2025, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.

 物語がいよいよクライマックスへと向かい、ますます盛り上がりを見せているTBS系火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。

 料理を通して自分の価値観を見直し続ける主人公の勝男(竹内涼真さん)は、回を追うごとに人の気持ちが分かる男へと成長し、元カノである鮎美(夏帆さん)もまた自分と向き合う中で価値観をアップデートしてきた。そんな二人の距離が、再びゆっくりと近づきつつある。

 そうした中、11月25日放送の第8話では、「男は外で働き、女は家を守るべき」というかつての勝男と同じ価値観を持つ両親がトラブルを経て考え方を変えていく姿が描かれ、大きな反響を呼んでいる。

■「こうあるべき」を手放していく勝男の母親

 作中ではこれまでも、勝男の父・勝(菅原大吉さん)がモラハラ発言を繰り返す場面があり、「この親にして勝男あり」といった声も視聴者から上がっていた。第8話は、耐え続けてきた母・陽子(池津祥子さん)がついに家を飛び出し、勝男の家へ転がり込むという衝撃の幕開けで物語が描かれた。

 陽子は勝男家で家事を先回りしてこなし、息子の世話を焼き続けた。それは母親はこうあるべき、女性はこうあるべきという長年染みついた正しさで、自分を守るための鎧でもあったのかもしれない。

 けれど、鮎美との破局によって成長した勝男にとってはその親切が苦しく、昔なら当たり前だった母の気遣いも負担になりつつあった。それでも「やめて」と言えないまま、不満が積み重なっていく。

 状況が動き出したのは、陽子の「息子に彼女ができたら出て行く」という言葉からだった。勝男は友人の椿(中条あやみさん)に恋人役を頼むが、そこで思わぬ問題が勃発。陽子が椿に「結婚は早いほうがいい」「高齢出産は大変」など、かつての勝男を思わせる無神経な言葉を投げてしまうのである。

 けれど、陽子もまたこのドラマの登場人物らしく、自分を振り返ることができる人だ。踏み込みすぎたことを椿に謝り、自分が姑の過干渉に耐えてきた結果、その価値観に自身が染まっていたと気づく。そして椿が恋人ではないと悟ると、勝男にプレッシャーをかけていたことを悔やみ、自ら家を出た。

 その先で偶然再会した鮎美との会話で、陽子はこれまでの人生を見つめ直す。一方で、陽子がいなくて電話の充電ができないと父・勝が勝男の家に来るという展開も。

 癖は強いが、両親の愛は本物だ。勝男が「母さんが自分を犠牲にして俺たちのことを育ててくれたんだなって思うと、困っている椿を助けられなかった」とこぼすと、陽子は「何も気にせんでいいんよ。好きで育てたんやけん」と笑って返す。その表情には、息子を思い続けてきた母の優しさがにじむ。

 そんな両親に視聴者からは「どちらの想いも伝わって切ない」という声のほか、「一人で何もできなくなっていた陽子の気持ちが分かる」という女性の共感の言葉も寄せられていた。ドラマとはいえ、現実にもあり得る葛藤だからこそ胸に響くのだ。

 その後、勝男の想いを受け取り、陽子は彼と大人同士としての距離を決めた。母という役割に縛られていた彼女が、心を解放した瞬間である。

 父と母の関係は、何も変わらなかった世界線の未来の勝男と鮎美だ。鮎美は我慢を重ねて自分を失い、勝男は何もできないまま歳を取っていく。その未来を変えられたのは、勝男がきちんと自分の気持ちを伝えられたからこそ。

 古い価値観が悪いわけではなく、大切なのはそこに絡めとられずに自分がどう生きたいかを選べることだ。だからこそ、両親を否定せずに自分の望む生き方を言葉にできた勝男の成長と、それを受け入れた陽子の成長が輝いて見えたエピソードだった。

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