90年代の少年少女を夢中にさせた『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』。本作は『ドラゴンクエスト』シリーズを題材にしたアンソロジー形式のギャグマンガで、1990年の第1巻発売以降、多くの作家が抱腹絶倒の4コマを生み出しシリーズの人気を確立してきた。
2025年10月30日には、作家の中でもとりわけ人気が高かった『南国少年パプワくん』の作者・柴田亜美さんによる新刊『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 ニセ勇者本』(スクウェア・エニックス)が発売され、大きな話題を呼んでいる。
新刊には、SNSで発表してきた4コマをはじめ『パプワくん』とのコラボや当時の制作秘話までが収録されており、読み応えも抜群。時を経ても変わらぬ柴田さんのギャグセンスが随所に光り、リアルタイムで読んでいた読者たちは懐かしさに胸が踊ること間違いなしだ。
新刊で改めて注目が集まる今、そんな柴田さんをはじめ『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』で活躍した名作家を振り返りたい。
■今なお読者の心に残り続ける「もりそば」「うおのめ」の衝撃
冒頭でも触れたように、当時は柴田亜美さんによる4コマの人気が凄まじかった。柴田さんが作品に初参加したのは1990年のこと。きっかけは、友人からの「『エニックス』でドラクエ4コマを描ける人を募集しているらしい」という勧めだったという。
そこで柴田さんは、「だって好きなんだもん」というタイトルで、犬になった王女をラーの鏡で戻そうとするも、主人公が「俺は犬が好きだ」と鏡を割ってしまうという攻めた4コマを描いて応募。見事に連載を勝ち取り、一気に作品の顔となっていく。
新人当時から、柴田さんのキレの良いギャグは、当初から読者の度肝を抜くほどにセンス抜群。特に、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』をテーマにした「ニセ勇者」は、柴田4コマの代表的存在といえる。
主人公の勇者はゲームの勇者らしさをわずかに残しつつも、ずんぐりむっくりとした体つきに。そして無表情ながらクセになる顔立ちで強烈な存在感を放つ。さらに、日の丸の扇子を携えている点など『南国少年パプワくん』の主人公・パプワくんとの共通点も多い。
ゲーム内ではクールなキャラたちが、柴田さんの手にかかると一瞬で脱力系の愛すべきキャラへと変貌し、それがまた読者の心をつかんで離さなかった。
柴田さんはドラクエのキャラデザインを手がけた鳥山明さんへの尊敬を公言しており、「ニセ勇者を描き続けたことでパプワが生まれた。鳥山先生でなければ漫画家になっていなかった」と語っている。ドラクエ4コマでの経験が、後の作風を決定づけたのだ。
作中には、勇者のほかにも柴田さんの斜め上の発想から生み出された個性的なキャラが次々と登場する。中でもインパクトが強いのは、男武闘家の「もりそば」や賢者の「うおのめ」だろう。突拍子もないネーミングを自然に作品へ溶け込ませてしまうセンスには脱帽だ。
当時の読者にはそれぞれ心に残るネタがあると思われるが、中でも勇者が虹の雫を“鼻水”と茶化す「あと一歩」は忘れがたい一作だ。このネタは令和にも受け継がれ、21年には追憶の神殿で虹の雫を手に入れた『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』の主人公の前に時を超えて勇者が現れ、鼻水を教えるというコラボネタも描かれている。
さらに、死に際のバラモスにHPが何の略かを聞かれ、“エッチスケッチピッチピチギャル”だと適当なことを教える「ピッチピチ」も人気ネタのひとつ。ちなみに、MPは“ムチムチプリンプリン”の略で、賢者は120あるため色っぽいと言われていた。
痛快なギャグで一世を風靡した柴田さんは、その後『ガンガン』創刊に際して声をかけられ、1991年に『南国少年パプワくん』で本格的に漫画家デビューを果たす。ドラクエ4コマがあったからこそ、我々読者は後の“柴田ワールド”を堪能できたのだ。


