炭治郎は痛みを与えず母蜘蛛を倒し、義勇は竈門兄妹に手を差し伸べた『鬼滅の刃』隊士たちが見せた「鬼への慈悲」の画像
DVD『鬼滅の刃 10』(アニプレックス) (c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 吾峠呼世晴氏による漫画『鬼滅の刃』は、人間と鬼との壮絶な戦いを描いた物語だ。2019年のテレビアニメ化を皮切りに、2020年に公開された劇場版1作目『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は日本のアニメ映画史に残るヒット作に。そして、現在公開中の劇場版2作目『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』もまた、歴史的な大ヒットを記録している。

 今や世界を巻き込む人気を誇る『鬼滅の刃』の魅力はひと言では言い表せないが、激しい戦闘描写だけではなく、主人公の竈門炭治郎の慈悲深い心もまた、見る人の心を打つ要素の1つ。

 そこで今回は、炭治郎を含め『鬼滅の刃』に登場する鬼殺隊士たちが作中で見せた、鬼への慈悲を振り返っていこう。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■自ら頸を差し出す鬼に放った…「干天の慈雨」竈門炭治郎

 鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹・禰󠄀豆子までも鬼に変えられてしまった主人公・炭治郎。彼は消えない悲しみを背負いながらも、鬼に対して同情を寄せるほど心が優しい少年である。

 物語序盤、初めて鬼と戦った際にはとどめを刺すことができず、結果的に朝日が昇ったことで鬼が消滅する経験もしている。そんな彼が見せた優しい倒し方が、「水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨」だ。

 「那田蜘蛛山編」において、下弦の伍・累に恐怖で支配され、偽りの家族を演じさせられていた母蜘蛛。彼女は糸を操る血鬼術で鬼殺隊士たちを人形のように操作し、炭治郎と嘴平伊之助に襲いかかった。

 しかし、2人の連携により攻撃を撃破されたうえ、ついには自身の居場所も見つかってしまった母蜘蛛。上空から攻撃を仕掛ける炭治郎が「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」の構えを見せた瞬間、彼女は「殺される……!! 頸を斬られる!!」と危機を察知。何か逃げる術はないかと考えるも、同時に「死ねば解放される」「楽になれる……」と、どこか救われたような表情を見せる。

 累の冷酷な支配の下で生きていた母蜘蛛は、この戦いでもたびたびプレッシャーをかけられていた。そんな状況で追い詰められた彼女は死を悟り、抵抗をやめ、全てを炭治郎に委ねるように両手を前に差し出した。

 そんな母蜘蛛の様子を見た彼は、技を「水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨」に変更し、一太刀で彼女の頸を斬った。斬られた母蜘蛛は「優しい雨にうたれているような感覚」「少しも痛くない 苦しくもない ただあたたかい……」と、安らかな表情を浮かべる。

 この技は斬られた者にほとんど苦痛を与えず、相手が自ら頸を差し出した時のみ使用する「慈悲の剣撃」とされる。炭治郎の優しさに触れた母蜘蛛は、「十二鬼月がいるわ 気をつけて…!!」と、炭治郎の身を案じながら消滅していった。

 鬼として人間の命を奪った事実は消えないものの、母蜘蛛は偽りの家族の中で暴力に支配されてきた。そんな生活から解放されたいという彼女の願いが炭治郎に通じ、穏やかな死がもたらされたのである。アニメではこの場面が美しい光の演出と共に描かれており、熾烈な戦いの最中とは思えないほど感動的なシーンとなっていた。

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