■禰󠄀豆子だけが鬼に変えられていたのはなぜ?

 竈門家を襲った無惨は、炭治郎の母・葵枝と幼い弟妹たちを殺している。ではなぜ、禰󠄀豆子だけが鬼に変えられていたのだろうか。

 そこには、無惨のある目的があったと考えられる。彼は、青い彼岸花を探す傍ら「太陽を克服する鬼」を作ることを試みていた。そのため、特別な体質や血質を持つ人間を見つけては、自らの血を与えて鬼化させている。

 また無惨は、より強い鬼を生み出すことも目的としていた。上弦の鬼たちのように、自らの血に適合し、強力な鬼となる素質を持つ人間を探していたのである。そうして生み出した鬼の誰かが太陽を克服した時、その鬼を吸収することで、無惨は自らも太陽を克服できると考えていたのだ。

 禰󠄀豆子は鬼化した当初から炭治郎を守ったり、人間を食べることを我慢したりと、ほかの鬼とは一線を画する特異性を見せていた。戦闘でも禰󠄀豆子の素質は目を見張るものがあり、鬼の毒を消してしまう血鬼術「爆血」や、俊敏で威力のある蹴り技などで上弦の鬼とも渡り合っている。

 さらに竈門家は、かつて無惨を極限まで追い詰めた「始まりの呼吸」こと「日の呼吸」を使用する剣士と深い縁がある家系であったことも無関係ではないだろう。もしかしたら無惨は禰󠄀豆子を見て、ほかの人間とは違う素質を感じ取ったのかもしれない。

■無惨が家族を食べなかったのはなぜ?

 竈門家を襲った無惨は、その日不在だった炭治郎と、鬼へ変えた禰󠄀豆子以外の家族を皆殺しにした。だが、その亡骸には食べられた形跡はなかった。このことから、無惨は炭治郎の家族を殺しておきながら、食べることなく放置してその場を去ったということになる。

 このような行動は「刀鍛冶の里編」などでも見られた。禰󠄀豆子が太陽を克服したことを知った無惨は、人間の少年「俊國」としての仮の姿を捨て、養親と使用人を惨殺。だがその時も、彼らを食べることなく足蹴にするだけでその場を去っている。

 鬼は人間を食べるほど強くなるとされており、鬼の始祖である無惨もまた、1000年以上も生きてきた中で数多くの人間を捕食してきたはずである。行方不明者たちの中には、無惨の犠牲となった者も少なくないだろう。

 一方で、無惨や上弦の鬼たちが、下級の鬼のように飢えて人間を襲う描写はほとんどない。むしろ彼らはより強くなるため、人間を選んで食べているような印象さえある。

 たとえば、上弦の伍・玉壺は人間を悪戯に殺めて壺に生け、“芸術作品”と称していたこともあり、捕食以外の目的で殺戮をおこなうこともあった。

 これらのことから、無惨も食べる人間を選別していた可能性が高いだろう。とはいえ、無惨が飢餓状態や瀕死の状態であれば、竈門家も食べられていたかもしれない。凄惨に殺されてしまった家族たちだが、亡骸が遺され、炭治郎の手で弔われたことは、せめてもの救いだったのかもしれない。

 

 物語の始まりであり、作中でも屈指の衝撃的な出来事である竈門家襲撃。これは、炭治郎が鬼狩りとして生きていくきっかけになり、さらには戦いの最中で幾度となく回想されることになる重要なシーンだ。

 無惨に襲われたことで、炭治郎の運命は大きく変わる。愛する家族を突然奪われ、妹を鬼に変えられた……その絶望は計り知れないが、それでも彼は前を向き、困難に立ち向かっていく。その心の強さは、多くの読者に勇気を与えたであろう。

 そんな炭治郎が、家族の仇である宿敵・無惨とどのような戦いを繰り広げるのか。全三部作で描かれる最終決戦「無限城編」で、その結末を見届けたい。

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