■取調室で真相を解明「容疑者は一人だけ」

 田村由美氏による『ミステリと言う勿れ』(小学館)の第1話「容疑者は一人だけ」では、いきなり主人公の久能整が容疑者となってしまう。

 久能は大学の同級生を殺害した容疑者として、警察官から任意同行を求められ取り調べを受ける。身に覚えのない彼は、取り調べを受けながらも自ら事件を解き明かしていくことに……。

 そして、警察官との対話から少しずつ情報を引き出し、自分に濡れ衣を着せようとした人物がいると突き止める。なんとそれは、取り調べをしていた警察官の1人だった。

 犯人は過去の轢き逃げで妻子を亡くしており、その加害者が今回の被害者だった。久能の部屋の鍵を拾ったことから、彼に罪をなすりつけてその復讐を遂げる計画を立てたのである。しかし、すべてを久能に見破られてしまい、犯人は観念することになる。

 しかも、妻子を轢き逃げしたのは被害者ではなく別人だったというおまけつきだ。これには犯人も愕然とし、あまりにも後味が悪かった……。

 久能は警察署内の尋問という状況下で、その独特な話術によって警察を動かし、事件を解決していく。「ただの学生」を自称する彼の非凡さが、強く印象付けられるエピソードだった。

■ポンコツな相棒が活躍!?「孤島天文台殺人事件」

 最後に、天野明氏による『鴨乃橋ロンの禁断推理』(集英社)から、主人公・鴨乃橋ロンが容疑者となってしまう「孤島天文台殺人事件」を紹介したい。

 天体カメラマンの女性が密室で銃殺され、その場に居合わせたロンが容疑者として拘束される。逮捕のきっかけを作ったのは、ロンがかつて在籍していた探偵養成学校の教官ジョン・グリズリーだった。

 しかし、ロンの相棒・一色都々丸(トト)が現場を調べて得た数々の情報をもとに、ロンの無実が証明される。普段はロンに助けられてばかりの“ポンコツ”なトトだが、この事件では頼もしい活躍を見せた。

 またロンが犯人ではない根拠として、彼の銃の腕前も関係していた。ロンは探偵養成学校時代から銃の扱いが苦手で、評価も低い……。そのため、被害者の心臓を背後から一撃で狙うことは不可能だと判断されたのである。

 真犯人は、10年前に起きた7人銃殺事件の犯人の息子だった。彼は、実はルポライターだった被害者が過去の事件を掘り返そうとしたため、口封じに殺害したのである。さらに、犯行をグリズリーに疑われたため、彼も殺害するに至った。

 最終的に、ロンとトトのコンビが10年前の事件の真相も含め、すべての謎を解き明かす。容疑者になったロンが身動きできないことで、普段は頼りないトトの活躍が見られるという意味でも、珍しいエピソードだ。

 

 推理漫画の主人公は、その性質上多くの事件に巻き込まれるため、容疑者になってしまう展開はある意味必然といえるかもしれない。

 しかし、容疑者という不利な状況に立たされても潔白を証明し、事件を解決に導く姿は、彼らの非凡さを際立たせてくれる。

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