可愛いだけじゃない…社会現象を巻き起こした名作『動物のお医者さん』に登場する忘れられない「ゾッとしたエピソード」の画像
花とゆめコミックス『動物のお医者さん』第1巻(白泉社)

 1987年より『花とゆめ』(白泉社)で連載が開始され、シベリアン・ハスキーブームも巻き起こした佐々木倫子氏による漫画『動物のお医者さん』。個性豊かな登場人物とキュートな動物たちが織りなす物語は、何度読んでも楽しめる中毒性のある名作だ。

 大学の獣医学部を舞台にした本作では、動物たちのエピソードだけではなく、数々の実験や手術、時にはちょっと不気味な動物も描かれる。全体的にはコミカルで癒される作風だが、中には読者をギョッとさせるようなエピソードも登場した。

 ここでは思わずゾッとした、ちょっと怖い話を振り返ってみよう。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■菱沼の昔の恋人だと思いきや…若き医師との間にあった手術室での苦い思い出

 第23話は、主人公の“ハムテル”こと西根公輝の先輩、菱沼聖子にまつわるエピソードだ。マイペースで低血圧な彼女は健康診断での採血後、止血もせずに歩き回って廊下を血だらけにし、周囲の学生たちに悲鳴をあげさせるといった強烈なキャラクターだ。

 そんな菱沼の前に、昔の恋人らしき若い医師が現れる。周りは“菱沼くんの恋を応援しよう!!”と2人の会話に聞き耳を立てるのだが、会話はどこか噛み合わない。

 その後「あんな別れかたをしたので気になっていた」という医師に対し「だって食事がまずかったんですもの」と、不思議な返答をする菱沼。しかも「あのときのことを許してもらえますか」という医師に対し、菱沼は「絶対ダメ〜〜」と断罪するのだ。

 実はこの医師、菱沼の元恋人などではなく、彼女が盲腸炎を起こしたときの担当医だった。盲腸の手術経験のないその医師は、なんと菱沼の腸を力づくでギュウギュウに腹腔内に押し込んだという。菱沼はその様子を手術室のライトの反射で目撃しており、その処置に対して許さないと怒っていたのだ。

 高校時代にこのエピソードを読んだ筆者。「外科手術の様子は天井のライトに反射して見えてしまうのか?」と、友人同士で騒然となったことを覚えている。仮に見えたとしても、そんなグロテスクな光景をじっくり観察できる菱沼は、やはりタダものではないのである。

■ネズミ嫌いには悪夢…どこから現れるか分からない巨大ドブネズミとの攻防

 『動物のお医者さん』には、獣医学部の実験やペットキャラとして「スナネズミ」がよく登場する。しかし、ハムテルの親友である二階堂昭夫は、ネズミが大の苦手だ。彼は愛らしいスナネズミはもちろん、第80話で巨大なドブネズミが登場した際には完全なパニック状態に陥っている。

 このエピソードでは、実験や検査をする医局員室に巨大なドブネズミが現れる。捕まえようと学生や教授が罠を仕掛けるも、ネズミはそれを嘲笑うかのようにエサだけ取って逃げて行く。

 ある日、そのドブネズミが洗濯機の奥に逃げ込んだことで、ハムテルたちはついに囲い込みに成功。しかし、そこから持久戦に突入すると根負けした学生たちは次々と帰っていき、最後はネズミ嫌いの二階堂だけになってしまう。深夜、静まりかえった医局員室で、彼はほうきを片手に1人でドブネズミと対峙するのであった。

 佐々木氏の描く動物はどれもキュートで、ドブネズミすらどこか可愛らしく描かれている。しかし、実際のネズミは決してそのような存在ではない。夜中に部屋の奥に隠れたネズミとたった1人で対峙しなければならないと想像すると、その恐怖は計り知れない。

 結局、ネズミはハムテルのアイデアで捕獲されたが、その際、顔の真横を駆け抜けられ、二階堂はショックのあまり放心状態に……。深夜どこから飛び出してくるか分からない巨大なドブネズミとの格闘は、彼にとってまさに悪夢のような体験だったのである。

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