■あのカサカサという音は何…菱沼家に入った泥棒エピソード
最後に紹介するのは第107話、菱沼の一人暮らしの家に泥棒が侵入するエピソードだ。
深夜、菱沼が家に帰宅すると鍵が空いており、窓も破られていた。もともと散らかっていた部屋ではあるが、明らかに何者かが侵入した形跡がある。しかも、近隣住民が慌てて逃げていく怪しい男を見ており、その様子を聞くと“顔面蒼白で、目は恐怖に見開かれていた”と言うのだ。
不気味な証言に不安を覚えながら、菱沼の部屋を捜索するハムテルと二階堂。すると、突如として謎の物音が……。「あの音はなに!?」と、その場の全員が恐怖で真っ青になる。
泥棒が侵入しただけでも恐ろしい状況下、さらに暗闇から聞こえる謎の物音は恐怖を倍増させる。だが、その正体は菱沼が飼っていたスナネズミがカサカサと動く音だった。のちに捕まった泥棒は“荒れ果てた部屋の暗闇の中で、誰かがカサカサとお菓子を食べていると思って怖かった”と、供述している。
泥棒という現実的な恐怖と正体不明の物音というWの恐怖。だが、そのオチに愛らしいスナネズミを登場させて丸くおさめるこの構成は、まさに『動物のお医者さん』ならではのものだろう。
『動物のお医者さん』ではこのほかにも、二階堂が1人で猫の帝王切開に挑む緊迫したエピソードや、夜中に髪の長い女と青い目の犬に遭遇し絶叫するエピソードなど、ハラハラさせられる場面が数多く登場する。
いずれもちょっと怖い展開かと思いきや、最後は動物の癒しにつながるエピソードになっており、不思議と心温まる結末を迎える。こうしたハプニングや恐怖さえも、最終的には読者を温かい気持ちにさせてくれるのが、本作の大きな魅力だと言えるだろう。


