■ラインハルトやビュコックが才能を認めた猛将

 続いて紹介したいのは、自由惑星同盟軍の第10艦隊の司令官だったウランフ提督である。ベテランの司令官が多かった同盟軍の艦隊司令官の中で比較的若く、当初は異端児とされていたヤン・ウェンリーの理解者のひとりでもあった。

 だが、同盟軍において屈指の愚行とされる「帝国領侵攻作戦」において、物資不足の状況で帝国本土深くまで侵攻。ヤン、ウランフ、ビュコックらはその危機的状況を察し、撤退の準備を開始していた。しかし同盟の陣列が伸び切ったところを見計らい、帝国軍は一挙反転攻勢に出る。

 いわゆる「アムリッツァ会戦」の前哨戦が始まり、ウランフ率いる第10艦隊は、帝国軍を代表する猛将、ビッテンフェルト提督率いる「黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)」と激突した。

 ウランフの艦隊は補給路を絶たれ、数の上でも劣勢だった。それでも序盤は互角の戦いを繰り広げたのは、彼の手腕があってのことだろう。それでも次第に数の暴力に押され、ウランフは撤退という判断を余儀なくされる。

 だが、不運だったのは敵の数が多かったため、すでに包囲されて逃げ道がなかったことである。全滅を避けるには、一点集中攻撃による中央突破という手段しか残されていなかった。

 それでも突破に成功して逃げられた艦はあったので、艦隊司令官であれば自分の乗る旗艦を脱出させることもできたはず。にもかかわらずウランフは自らしんがりを務め、傷ついた味方艦を逃がすという道を選んだ。そのかいあって約半数の味方を逃がすことに成功するが、ウランフはここで戦死したのである。

 ビッテンフェルトを相手に、不利な戦況ながらも一時は五分に持ち込んだ才覚は傑出していた。戦力が足りていたら、帝国屈指の猛将すら退けた可能性もあったかもしれない。過去の戦いでは、あのラインハルトが彼の実力を認めており、ビュコックも「ウランフが生きていれば」とぼやくほど、その才能の喪失は惜しまれた。

 もしもウランフが「アムリッツァ会戦」を生き延びていたら、以後常に人材不足に悩まされた同盟において、ヤンやビュコックの力強い味方になったのは間違いないだろう。最終的に同盟が敗れたのも、首都を空にして全兵力を戦場に送り込むしか勝利の望みがなかったからであり、ウランフのような逸材がいたら、もう少し違った明るい未来が訪れていたかもしれない。

 しかしアニメでは、ウランフが命がけで逃がした艦の中にダスティ・アッテンボローが含まれていた。アッテンボローの存在もまたヤンや、その仲間にとってかけがえのない存在であり、もしウランフが自らの生存を優先させた行動をとっていたら、彼がどうなっていたかは分からない点も付記しておきたい。

 そんなウランフは、同じように帝国領侵攻作戦で降伏を潔しとせず自決を選んだボロディン提督とともに、外伝作品にて活躍の場面が描かれている。本伝では早逝したが、作者も有能な人物と認めている証といえるだろう。


 『銀河英雄伝説』はフィクションとはいえ、あっさりと戦死した人物が「もし生きていたら……」と、その後の展開を妄想してみるのは面白い。とくに作中の歴史では帝国軍に敗れることになる自由惑星同盟が勝利を得るためには、どのような道筋があったのか考察してみた人も多いのではないだろうか。

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