■苦しみを与えない慈悲深き一太刀…『鬼滅の刃』干天の慈雨

 2025年に最新映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開され、全世界における日本映画の歴代興行収入1位を達成したことでも話題を呼んだ吾峠呼世晴さんの『鬼滅の刃』。原作漫画の連載は完結したものの、その勢いはとどまるところを知らず、今なお多くのファンを熱狂させ続けている。

 本作の登場人物たちは、「全集中の呼吸」と呼ばれる特殊な技を駆使して悪しき鬼たちと戦うが、その呼吸法から派生する多彩な「型」も大きな見どころの一つだろう。

 そのなかでも、ある場面で登場したレアな技が、主人公・竈門炭治郎の放った「干天の慈雨」だ。これは“水の呼吸 伍ノ型”に位置する技で、那田蜘蛛山で対峙した母蜘蛛に対して繰り出された。

 この技の最大の特徴は、相手にほとんど痛みや苦痛を与えることなく頸を斬り落とすことができる点にある。炭治郎は戦いのなかで母蜘蛛が戦意を喪失していることを悟り、まるで彼女を解放するための“介錯”をするようにその頸を斬り落としたのだ。

 その名の通り、空から優しく降り注ぐ雨のような斬撃がアニメ版では非常に美しいエフェクトで描かれ、なんとも印象的な技となっていた。

 このように特殊な性質を持った技だが、作中で明確にその名前が登場し、炸裂したのはこの一度きり。飛び抜けて強力な攻撃技というわけではないが、鬼殺隊が討つべき鬼に対し、慈悲の意を込めてとどめを刺すことができる数少ない技でもある。

 とっさの判断とはいえ、母蜘蛛を相手にこの技を繰り出したのも、心優しい炭治郎ならではの選択に思えた。

 

 キャラクターたちの強さを示すバロメーターであり、同時に彼らの個性を象徴する必殺技の数々。使用者たちの性格や人柄を反映したものが多いが、今回紹介した技のようにその知名度に反して使用頻度が極端に少ないものも多く、その意外な事実に驚かされる。

 しかし、わずかな登場機会にもかかわらず、その存在が広く知れ渡っているのは、それだけその必殺技が読者にもたらしたインパクトが絶大だった証といえるだろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3