■疾走感と独特なパースでファンを魅了! 天才アニメーターの魅力が爆発したSF作品
1984年9月に発売されたOVA『BIRTH(バース)』は、監督を貞光紳也さん、キャラクターデザインを金田伊功(よしのり)さんが担当した。
本作は、かつて高度な文明が栄えた惑星アクアロイドを舞台にしたSF作品。聖剣(シェード)を手に入れた少年シュルギ・ナムが、幼なじみのユピテル・ラサや相棒の小型生命体モンガーと逃亡劇を繰り広げるというストーリーだ。
このOVAでは、80年代アニメで脚光を浴びた貞光さんと金田さんの魅力的な作風がぎっしりと詰まっている。
とくに金田さんが生み出した独特の作画スタイルとして、アクロバティックな構図の「金田パース」、人工的な輝き「金田光(びかり)」などは有名。彼の手がけた『銀河旋風ブライガー』のOP映像は、漫画家の島本和彦さんも「神作画」と絶賛していた。
『バース』では、金田さんの独特のスタイルと貴重なキャラクターデザインが楽しめる。ロボットやメカがカッコよく、人間のフォルムは流線型で丸っこい。ヒロインのラサは柔らかそうだし、モンガーは愛らしいのだ。
さらに本作の魅力といえば、疾走感である。冒頭のラサがホバーバイクで岩を避けながら飛び回るシーンは、キャラだけではなく背景もよく動き、グルグル回り込むカメラワークも秀逸なのだ。
ちなみに金田さんが手がけた漫画版『BIRTH(バース)』(徳間書店)も読んだが、やはり独特な構図が目を引き、とまっている絵がまるで動いているような躍動感が味わえた。
このOVAの制作スタッフには、庵野秀明さんやいのまたむつみさんら、日本を代表するクリエイターが参加。さらに音楽はスタジオジブリ作品でもおなじみの久石譲さんが担当している。そのうえ貞光&金田テイストを長時間堪能できる実に豪華な作品だ。
■伝説のアイドルに恋愛要素、変形メカなど80年代要素が凝縮
1985年3月に発売された『メガゾーン23』は、全3巻のOVAシリーズ。『PART1』の監督を務めた石黒昇さんを筆頭に、美樹本晴彦さん、平野俊弘(現・俊貴)さん、板野一郎さんら『超時空要塞マクロス』(1982年)のスタッフが結集して作られた。
本作は1980年代の東京が舞台。人気アイドル・時祭イヴの歌が街を流れる世界で、バイク好きの少年・矢作省吾が友人から託された試作バイクをめぐる事件に巻き込まれるというストーリーだ。
このOVAの大きな特徴は、美樹本さんデザインの「時祭イヴ」を除き、各巻ごとにキャラクターデザインが異なる点にある。
『PART1』は平野さん、『PART2』は梅津泰臣さん、『PART3』は北爪宏幸さんが担当しており、メインビジュアルにイヴがいなければ別作品のようだ。
中でも平野さんの描く“美少女”は定評があり、監督デビュー作のOVA『戦え!!イクサー1』(1985年)でアニメファンから熱狂的な支持を得た。平野さんの妻である垣野内成美さんや美樹本さんとともに、当時を代表する美少女キャラ作家のひとりである。
作中では、80年代の若者ファッション、原宿や渋谷など流行の発信地、昭和の街並みや文化が丁寧に描かれ、当時を知る者には懐かしく、今の人にとっては新鮮な日本の風景が広がる。
また、アイドルのイヴは巨大コンピューターによる“仮想の存在”で、バーチャルアイドルの先駆けともいえる革新的な設定だった。
政府が隠そうとする巨大コンピュータ「バハムート」やイヴの正体など、物語が進むにつれて壮大な謎が解明される展開も見どころ。一方、主人公の省吾とガールフレンド・高中由唯の交流をはじめ、刹那的に見えながらも懸命に生きる当時の若者が織りなす人間ドラマもおもしろい。
変形バイク、ロボット、美少女、歌、恋愛、陰謀など、さまざまな要素が盛り込まれ、作画や音楽の素晴らしさも印象的な良作だ。
由唯の「今が一番いい時代だって気がするだけ……」のセリフ通り、作中でも“過去”として過ぎ去った1980年代を生き生きと魅力的に描いた作品でもある。
ちなみに世界初のOVAは、押井守さんが携わり、1983年に発売された『ダロス』である。それ以降、『幻夢戦記レダ』(1985年)、『トップをねらえ!』(1988年)、『機甲猟兵メロウリンク』(1988年)など、傑作と呼ばれるOVAが多数誕生し、その高品質な内容と価格は多くのアニメファンに衝撃を与えた。
このような実験的かつ冒険的なOVAの数々が当時のクリエイターを育み、のちの日本のアニメーションにも大きな影響を与えたのは間違いない。今では昭和のOVA作品も動画配信サービスを通じて気軽に見ることができるようになったため、未視聴の人は当時のアニメファンが唸った傑作の数々をぜひ堪能してみてほしい。


