■月刊誌はズレが起こりがち?『鋼の錬金術師』『おおきく振りかぶって』

 先ほどの『わたるがぴゅん!』でも少し触れたが、月1回の月刊誌連載作品は、その掲載ペースから週刊連載以上に時間のズレが大きくなる傾向がある。

 『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)の歴史に残る、荒川弘氏が手がけたダークファンタジーの傑作『鋼の錬金術師』も、そのひとつ。特に印象的なのが、第89話から、エドワード・エルリックが黒幕「お父様」を倒す第108話までの最終決戦だ。連載期間だと約1年半かかっているが、すべて「約束の日」と呼ばれる1日に起こった出来事なのである。

 連載中の作品ならば、ひぐちアサ氏による高校野球漫画『おおきく振りかぶって』が挙げられる。

 本作は2003年に『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載が開始された。作者の産休期間などもあったが、2025年発売の最新38巻時点で主人公・三橋廉ら西浦高校野球部のメンバーは2年生になったばかり。現実世界では約22年が経過していても、作中では約1年ほどの出来事なのだ。西浦高校野球部の日々が、いかに濃密かつ丁寧に描かれているかがうかがえる。

 

 作中の時系列を検証して「え、これだけの物語が、こんな短期間に!?」と感じてしまう作品は決して珍しくない。それは漫画の主人公たちの人生が、我々読者にはイメージできないほどドラマチックだからだ。彼らが生きる時間の濃密さに「もっと時間が経っているはず」と、錯覚してしまうのだろう。

 読者とは全く違う時間の流れを生きる漫画の主人公たち。そんな彼らだからこそ、読者は時を超えて魅了され続けるのかもしれない。

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