当たり前の話だが、現実世界と漫画の世界は時間の流れが違う。週刊連載の漫画であっても1話ごとに作品内で1週間が経過するわけではない。ときにはほんの数分間の出来事を1カ月かけてじっくり描くこともざらにあり、短い時間を濃密に引き延ばしてドラマチックに見せるのは、フィクションの大きな特色といえる。
人気作の長期連載では、現実と作中の「時間差」が顕著に表れやすい。連載期間や作品のスケールと比べて作中で経過した時間が極端に短いタイトルもあり、時系列を整理した際に「え? それしか時間経ってないの!?」と驚いた経験は、漫画ファンであれば一度はあるのではないだろうか。
この記事では、そんな「壮大な作品のスケールと比べて作中の経過時間が短すぎる」名作漫画を紹介していこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■数年がかりでアツい夏を描いた『SLAM DUNK』『わたるがぴゅん!』
筆者の体感かもしれないが、学生スポーツ漫画は作中の時間と現実のズレがかなり出やすいように思う。特に夏の大会をじっくり取り上げる作品は一試合が長くなりやすく、1〜2時間程度の試合で数カ月、場合によっては年単位の話数が必要だからだ。
たとえば、井上雄彦氏によるバスケット漫画の金字塔『SLAM DUNK』は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で1990年から1996年まで約6年間連載されている。
だが、主人公・桜木花道が4月に湘北高校に入学してから、最終回でキャプテン・赤木剛憲ら3年生が引退する日まで、わずか4〜5カ月しか経っていない。県大会の海南大附属や陵南、全国大会での山王工業といった強豪との戦いの日々が、実はほんの数カ月の話なのだ。
もっと極端な例だと、なかいま強氏による高校野球漫画『わたるがぴゅん!』もすごい。沖縄からやってきた野生児・与那覇わたるが中学野球の舞台で大暴れする本作も、春から夏の大会にかけての約4カ月間の話なのだが、連載期間は驚きの20年!
月刊誌『月刊少年ジャンプ』(集英社)での連載かつ、シリアスよりギャグコメディ寄りの作品ではあるのだが、それでも20年もの長期連載でひと夏の青春が描かれたことに驚かされる。
■激しいバトルは時間感覚も壊す?『ダイの大冒険』『ジョジョ第5部』
壮大な冒険や戦いを繰り広げるバトル漫画でも、時間感覚のギャップは生まれやすい。
「ジャンプ黄金期」を代表するファンタジー漫画のひとつ、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)は、主人公・ダイが大魔王バーン率いる魔王軍から世界を救う壮大な冒険活劇として、1989年から1996年まで約7年連載された。
7年という長期連載にもかかわらず、読者を飽きさせなかった勇者たちの冒険だが、作中において、ダイが故郷を旅立ってからバーンを倒すまで約3カ月しか経っていないことが示唆されている。その根拠は、ダイの師匠・アバンが最終決戦の地であるバーンプレスに現れた際、“ハドラーとの戦い以来、3カ月あまりの間修行していた”と語る場面にある。
何も知らない子どもだったダイが、仲間との出会いや死闘を経て成長し、「黒の核晶」の爆発から地上を守って行方不明になるまでがわずか3カ月とは……。「男子三日会わざれば刮目して見よ」とはよく言うが、3カ月あれば少年は世界を救えるまでに成長するのかもしれない。
荒木飛呂彦氏のバトル漫画『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』のスケジュールも強烈だ。主人公、ジョルノ・ジョバァーナが広瀬康一と出会った第1話から、パッショーネのボス・ディアボロを倒すクライマックスまでの情報を整理すると、なんと8〜9日しか経っていない計算になる。
「そんなバカな」と思う人もいるだろうが、作中のキャラの証言を追うと、これがとても短い日数での出来事と考えるしかないのだ。ボスの娘、トリッシュ・ウナの護衛任務について、パンナコッタ・フーゴが「2日間の任務」と語っているのは、その最たる例だろう。
敵味方含め20人超のスタンド使いが争った第5部の激闘が、わずか10日足らずとは驚きである。それこそ、永遠に結果にたどり着けないスタンド「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」を喰らったかのような、不思議な気分にさせられる。


