詐欺師、盗賊にギャング…なぜ助けたの?『ブラック・ジャック』BJが悪人に手を差しのべたワケの画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第5巻 (秋田書店)

 手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』は、医療漫画の金字塔と言える作品である。主人公の天才外科医であるブラック・ジャック(以下BJ)が、神業のようなメスさばきで患者を救うストーリーに、夢中になった人も多いだろう。

 しかしBJは純粋な正義のヒーローではなく、ときには悪の世界でも活躍する。基本的に大金をもらえればどのような患者でも救うため、相手が極悪人であるケースも珍しくないのだ。

 自分なりの正義を持つBJは、確固たる信念のもと、あえて悪人たちを救うケースも多い。ここでは、BJが極悪人たちに手を差しのべた意外な理由を振り返りたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■患者はいい人間ばかりとは限らない「白い正義」

 「白い正義」は、BJと対峙する正義の医者・白拍子医師が登場するストーリーだ。
飛行機の中で脳腫瘍を患う患者・ツモを見た白拍子医師。聞けば法外な料金を払い、マニラからBJに手術してもらうため日本に向かっているという。

 それを聞いた白拍子医師は、適正な価格で自分が手術をすると申し出て、ツモ夫妻を自分の病院に迎え入れる。

 その後、BJの元にはツモと敵対するギャングたちがやって来て、彼の手術をやめるよう銃で脅した際にピノコが撃たれてしまう。つまり患者であるツモはギャングのボスであり、BJのような闇医者が対応しないと、一般市民にまで危害が及ぶような存在であったのである。

 そんな事情を知らず、自身の正義感でBJから患者を奪ってしまった白拍子医師。結果的にはピノコが撃たれ、病院には警察が集まり、ツモの妻が違法薬物の密輸で逮捕されるなど、自分の行動が原因で多くのトラブルを招いたことを彼は思い知るのである。

 BJの元へ駆けつけた白拍子医師に対し、「患者はね……いい人間ばっかりとはかぎらないんですぜ」「そういう連中のために私のような立場の医者も必要なんだ」と伝えたBJ。彼がギャングであるツモの手術を請け負った理由は、闇の世界で暗躍する患者に対応できるのは自分しかいないという自負があったからだろう。

■死刑判決が出た盗賊の2度目の手術をした「約束」

 「約束」は、死刑判決を受けた盗賊のルペペを手術するエピソードだ。

 手術の依頼を受け、他国の難民キャンプへ向かったBJ。そこで待っていたのは、5000万ドルの強奪事件を起こし、警察に追われているルぺぺであった。

 BJは彼の体内に残った弾丸の摘出手術をおこなうが、環境が整っていない場所では応急処置が限界であり、後日あらためてオペの続きをすると彼に約束してその場を去る。その後B・Jは、ルペペが盗賊でありながらも、盗んだ金は貧しい人々に分け与える“正義の強盗”として現地では英雄視されていることを知るのだった。

 その1年後、BJはルぺぺと再会し2度目の手術をおこなうが、そのとき彼はすでに死刑判決を受けていた。手術が成功しても、ルぺぺはすぐに刑が執行されてしまう運命にあったが、それでもBJは約束を果たすために2度目の手術を成功させるのである。

 1度目の手術をBJが請け負ったのは、単純に高い報酬額だったからだろう。しかし2度目の手術では、彼が信念を持つ人物であることを知り、たとえ死刑囚であっても「りっぱな手術をやってやるぜ!」と奮起するのである。

 作中、BJは“この世に正義なんてものはない”と語っているが、ルペペの生きざまに少なからず影響を受けたことがうかがえる。彼が処刑されたあと、「助けられなかった患者は手術料はいらん」と言い、報酬の受け取りを拒否しているのも非常に印象的なエピソードである。

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