少女漫画の醍醐味は、主人公のヒロインが想いを寄せる相手と紆余曲折を経てどう結ばれていくかにあるだろう。最初は反発しあっていた2人が恋人になったり、予想とは違う相手とカップルになったりすると、読んでいるこちらも幸せな気持ちになる。
しかし、すべての少女漫画がハッピーエンドで終わるわけではない。中には、残念ながら悲劇的な結末を迎えるストーリーもあるのだ。
そのような作品はごく稀ではあるが、悲しい物語として多くの読者に強いインパクトを与えてきた。そこで今回は、衝撃的なバッドエンドで知られる少女漫画の名作を振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■普通の恋人同士に戻ると思ったのに…『南くんの恋人』
内田春菊さんによる『南くんの恋人』は、少女漫画の枠を超え、独特な世界観と衝撃的な結末で語り継がれる名作だ。
原作は漫画雑誌『月刊漫画ガロ』(青林堂)にて1986年から連載され、過去に何度も実写ドラマ化されている人気作。過去に放送されたドラマ版はポップなラブストーリーとして描かれることもあったが、原作漫画を読み返すとその結末は非常にシビアで悲劇的である。
物語は、ヒロイン・堀切ちよみが、ある日突然身長15cmほどの手のひらサイズに縮んでしまうところから始まる。小さなちよみの存在は周囲には秘密であり、彼女は恋人である南進の部屋で彼に世話になりつつ生活していくこととなる。
南はちよみを愛し献身的に世話をするが、彼女の身体が元に戻ることはない。そして物語のラストは、2人が出かけた温泉旅行の帰り道、南が交通事故に遭う悲劇で幕を閉じる。車外に放り出されたちよみは、その小さい体ゆえに命を落としてしまうのだ。普通のカップルに戻れる未来を期待した読者にとって、ちよみの死はあまりにも衝撃的な結末だった。
また本作では、ちよみが小さな体になったことで、一般的なカップルとは違うさまざまな問題が降りかかる様子も描かれている。用意すべきトイレや食事、ちよみサイズの洋服を準備するのにも苦労し、南はちよみに対して純粋な愛情だけでは乗り越えられない負担を抱えるようになる。
ストーリー全体を通して幸せなカップルの話とは言い難く、どちらかといえば小さなちよみに接する、南の不安な心情が描かれているのが特徴だ。
童話の『親指姫』のようなキュートな設定とは裏腹に、南の抱える苦悩や、バッドエンドを描いた本作は、唯一無二の独自性を持つ作品だと言えるだろう。
■ドロドロの愛憎劇が生む悲劇の連鎖『砂の城』
一条ゆかりさんによる『砂の城』は、少女漫画誌『りぼん』(集英社)にて、1977年から連載された作品だ。当時の少女漫画としては異例ともいえる激しい愛憎劇と、その中で生きる女性の過酷な運命を描いている。
主人公のナタリー・ロームは裕福な家庭に育ったお嬢様。しかし、自身の屋敷の前に捨てられていたことから、家族に引き取られ一緒に育ったフランシス・ドベルジュと身分違いの恋に落ちる。
両親の死後、叔母に結婚を反対された2人は駆け落ちして心中未遂をするという、序盤からハードな展開が続く。数年後、2人は再会するのだが、その際、フランシスは記憶を失っていた。そして、ようやくナタリーを思い出した直後、彼は事故死してしまう。
その後、残されたナタリーは彼の忘れ形見である息子に彼と同じ「フランシス」と名づけ、育てる。やがて成長した息子・フランシスとナタリーは年齢差を超えて愛し合うようになるも、再び運命のいたずらにより、今度はナタリーが記憶を失ってしまうのだ。
フランシスの懸命な看病の末、やっと記憶を取り戻したナタリー。今度こそ幸せになるかと思いきや、過酷な運命に疲れ切った彼女は、彼の腕の中で息絶えるのであった。
本作は、ナタリーとフランシスの世代を超えた恋愛を描いており、それぞれが記憶喪失になり命を落とすという悲哀を描いている。
ナタリー自身がフランシスとの愛を貫くというハッピーエンドではなく、愛した人の“忘れ形見”である息子とのかかわりを通し、世代を超えた愛憎劇が再び繰り広げられるのだ。
永遠の愛の成就ではなく、悲しみを引き継いで生きていくという、ほろ苦いラストが切ない名作である。


