■残酷な運命に翻弄された二人の愛『僕の初恋をキミに捧ぐ』

 青木琴美さんによる『僕の初恋をキミに捧ぐ』は『Sho‐comi』(小学館)にて、2005年から連載された人気作である。2009年には井上真央さんと岡田将生さん主演で実写映画化、2019年には実写ドラマ化もされている。

 物語は、重い心臓病を患い“20歳まで生きられない”と宣告された少年、垣野内逞と、逞の主治医の娘であり、幼い頃から彼に恋する種田繭の2人のラブストーリーだ。

 この作品には、“主人公が20歳で死ぬ”という、変えようのない残酷な運命がある。2人は幼い頃に結婚の約束を交わしていたが、逞は繭に辛い思いをさせたくないという想いから、彼女を遠ざけようとする。しかし、繭の強い想いにより、2人は限られた時間の中で愛を貫くことを決意するのである。

 原作漫画では、逞の最期は明確に描かれてはいない。しかし繭へ残した遺言や、笑顔で写った遺影、波形が途絶えた心電図の描写などから、彼が亡くなったことが強く示唆されている。

 もし逞が亡くなったとすれば、読者の多くが願った「2人のハッピーエンド」は叶わず、運命に抗えず主人公が死を迎えるというバッドエンドとなる。それはあまりにも切ない幕切れではあるものの、だからこそ多くの読者の涙を誘い、少女漫画史に残る名作として記憶されることになったのだろう。

 

 少女漫画といえば、主人公のヒロインとプリンスが結ばれてこそのイメージがあるが、悲劇的な結末もまた心に残る。

 恋愛が常に成就するとは限らない現実と同様、少女漫画もまた悲しい結末で終わる場合もあるのだ。2人で幸せな将来を送れなかったことは残念ではあるが、その切なさややるせなさもまた、読者の心を掴んだ背景になったと言えるだろう。

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