■「ピピン」はもはや酒場の住人?

 『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』の青年時代後半で仲間になるグランバニアの兵士・ピピン。かつて「大きくなったら 兵士になるんだい!」と語っていた宿屋の息子が成長した姿である。立派な志を持って登場するが、その後のストーリー展開は特になく、おまけのような仲間として扱われている。

 加入は任意で、こちらから話しかけないと一生仲間になることはない。そのため存在自体を忘れてしまい、後になって「酒場にピピンがいない!」と焦ることになるプレイヤーもいるほどだ。

 能力的には「特技なし」「呪文なし」、そしてステータスは平凡。だが装備可能な武器は多く、「はやぶさのけん」や「ふぶきのつるぎ」を持たせれば、意外な活躍を見せることも。素早さもそこそこあり、堅実な前衛として光る部分もあるかもしれない。

 しかし、『ドラクエ5』が誇る優秀な仲間モンスターの前では霞んでしまい、どうしてもその存在感は薄れがちだ。ルイーダの酒場で永遠に酒を飲み続ける存在になってしまうことも多いだろう。

■魔物に変身する「アモス」

 『ドラゴンクエストVI 幻の大地』に登場する戦士アモスは、魔物に襲われた町を救った英雄だ。町人たちから尊敬を集める存在だが、その戦いの中で尻を噛まれたことから、夜になると知らず知らず巨大な魔物「モンストラー」に変身するようになってしまう。

 それでも町人たちは恩人を追い出すことができず、真実を隠したまま、ともに暮らしていた。そして旅人に対しては、暗くなる前に町から去るよう忠告する――そんな“優しすぎる町”の住人がアモスである。

 やがて主人公たちがこの秘密を知り、「りせいのタネ」を与えることで、彼は変身を制御できるようになる。すべてを悟ったアモスは、「いつまでも世話になっているわけにはいかない」と仲間入りを志願。この時「いいえ」と断ると、モンストラーに変身し「こんなこともできるんですよ」と迫ってくる――あの印象的な名場面だ。

 しかし、もし早い段階でアモスに真実を告げてしまうと、彼は罪悪感から町を去り、二度と戻らない。この取り返しのつかない選択に後悔したプレイヤーも多いだろう。

 町をスルーしてもクリアできることもあり、アモスの存在を知らずに終わる人もいる。説明書にも載っていない、まさに“幻の仲間”と言える存在である。

 

 今回紹介したキャラクターたちは、いずれも決して物語の中心人物ではない。しかし影が薄いながらも、確かに『ドラクエ』の世界を支える一員であった。

 大半のプレイヤーは忘れてしまったかもしれないが、短い出番の中で個性を発揮した者もいた。『ドラクエ』シリーズが今も愛され続けているのは、こうした名脇役たちが生き生きと描かれているからかもしれない。

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