■ギャグ全開で原作の破天荒さを表現『珍遊記』松山ケンイチ
1990年代に大旋風を巻き起こした『珍遊記 ー太郎とゆかいな仲間たちー』は、漫☆画太郎さん特有の暴力・下ネタ・グロテスクな描写が満載の、伝説のギャグ漫画である。
その過激さゆえに「実写化は絶対に無理」と、長年言われ続けてきた作品でもある。そんな無謀とも思える挑戦に正面から挑んだのが、2016年公開の実写版で主演を務めた松山ケンイチさんである。
松山さんが演じたのは、主人公・山田太郎。町一番のかぶき者として暴れまわっていたが、倉科カナさん演じる僧侶・玄奘との戦いで妖力を失い、子ザルのような姿へと変わってしまう難役だ。
当時のインタビューで松山さんは「30歳の男が、妖力を封印された後の山田太郎という子ザルの感じを出して演じるのは、普通に考えたら成立しないだろう、と。そこにあえて挑戦していくわけですから」とその難しさを語っている。
さらに監督の山口雄大さんからは“腹がポコッと出ているくらいの体形にして”、“(太郎は)毛がないイメージ”と要求を受け、腹筋を緩めてお腹を突き出したり、全身の毛を剃って撮影に臨んだという。一糸まとわぬ姿での登場からクライマックスの放屁シーンまで、文字通り全力でギャグに振り切った姿勢はまさに圧巻だ。
とはいえ、松山さんが表現したのは単なる奇抜さではない。腹をかく仕草や、無邪気な笑顔といった一つひとつの動作に、山田太郎というキャラクターの破天荒さが確かに息づいていた。
■心と体で剛田猛男になった『俺物語!!』鈴木亮平
2015年公開の映画『俺物語!!』は、原作:河原和音さん、作画:アルコさんによる同名漫画を原作とした青春ラブコメディである。少女漫画としては珍しい“巨漢の男子高校生”を主人公に据えた異色作である。
鈴木亮平さんが演じたのは、身長2メートル・体重120キロという規格外の肉体を持つ主人公・剛田猛男。鈴木さんはインタビューで「原作ファンが持っている猛男のイメージに、できる限り近づけたい。そのためには、原作ファンの方以上に自分が猛男のファンになろう。それがすべての出発点です」と語っているが、その姿勢はまさに本気だった。
撮影前には約30キロの増量を敢行。1日3食に加えてパンを10個食べ、就寝中も起きて補食をするなど、徹底した役作りを行ったという。
その堂々たる体躯に、特殊メイクで仕上げた太眉ともみあげは、まさに猛男そのもの。オープニングの中学卒業式シーンで、若い俳優たちに囲まれた鈴木さんの姿はインパクト抜群だった。
そして本編では、その豪快な見た目とは裏腹の、恋愛に不器用で純粋な内面を見事に表現し、観客を魅了した。自分に惚れている女子高生・大和凜子(永野芽郁さん)の想いに気づかず、親友・砂川誠(坂口健太郎さん)との恋を応援しようと奮闘する姿には、まっすぐな優しさが滲んでいる。
鈴木さんは、肉体改造と感情表現を完全にリンクさせることで、原作の“熱くて優しい男”をスクリーン上に見事に再現してみせた。
奇抜な造形、人外の迫力、破天荒なギャグ、そして恋する巨漢男子の純情……。ジャンルは違えど、今回紹介した俳優たちに共通しているのは、“キャラクターとして生きる”という覚悟だったように思う。
漫画の実写化は、いつの時代も「再現度」という高い壁を突きつける。しかし、その壁から目を背けず、全身で原作に挑む俳優たちの真摯なアプローチがあれば、漫画の“空想”は確かにスクリーンの“現実”へと変わるのである。


