■絆に心を動かされた? BJが報酬のほとんどをおつりに「上と下」
最後はBJが報酬の大半を“おつり”として返した、心温まるエピソード「上と下」を紹介したい。
物語は、ビルの上で働く裕福な社長が大動脈を破裂させ、倒れることから始まる。社長の血液型は珍しいRHマイナス型であったが、普段はビルの下で働く作業員・力の輸血と、BJの手術で社長は一命を取り留める。そして、BJは手術料として5000万円を受け取った。
のちに大きな取引のため、アメリカへ向かおうとした社長。しかしその矢先、今度は力が事故で重傷を負い、輸血が必要な状態となる。社長は悩んだ結果、アメリカとの取引を諦め、力の元へ向かい自分の血液を提供。その結果、力は助かるものの、取引先を失った社長の会社は倒産し、社長は無一文になってしまうのだ。
そんな社長を励まそうと、定食屋にいる彼を訪れた力。するとそこにBJが訪れ「こないだの手術代のツリを持ってきた」と言い、封筒を渡す。その中には、4990万円分の小切手が入っていた。
もし社長が力を見捨ててアメリカへ向かっていたら、社長の会社は安泰だったかもしれない。しかし社長は仕事の成功よりも、命の恩人を助けることを選択した。その高潔な行動がBJの心を揺さぶり、報酬のほとんどをおつりとして返すにいたったのだろう。
本エピソードは、結局10万円という破格でBJが手術を請け負っただけでなく、普段は交わることのない人間同士が心を通わせた人間の絆の奇跡が描かれている。
このように『ブラック・ジャック』では、BJが法外な金額を要求する一方、その金を返すケースも少なくない。その理由はBJが受け取る価値のない汚い金だと判断したり、患者やその関係者の人間性に心を動かされ、報酬を突き返すなどさまざまだ。
いずれにせよ、BJの報酬は法外に見えるが、その技術を考えたら妥当とも言えるだろう。しかも情や優しさから金を返すケースがあることを踏まえたら、彼の手術は決して高額とはいえないのだ。


