名エピソード「ご意見無用」「約束」「上と下」でも…『ブラック・ジャック』BJが法外な報酬を突き返した「意外すぎる理由」の画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第21巻 (手塚プロダクション)

 手塚治虫さんが描いた医療漫画の金字塔『ブラック・ジャック』は、無免許ながらも天才的な腕を持つ孤高の天才外科医、ブラック・ジャック(以下BJ)が暗躍するストーリーだ。

 BJの手にかかれば、どれほど難しい手術であっても成功することが多い。だが、闇医者でもある彼は法外な手術料を要求するため、治療を受けられるのは基本的に大金を用意できる金持ちに限られる。

 しかし、そんなBJが意外な理由でお金を受け取らなかったり、法外な金額を要求しつつも、のちにその金を突き返したケースもある。

 ここでは、BJが報酬を返した、彼の信念が垣間見える意外なエピソードを紹介したい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■札束を振り払い激高したBJ「ご意見無用」

 まずは、依頼人の心ない仕打ちに対し、怒りと共に報酬を叩き返したエピソード「ご意見無用」を見ていこう。

 ある日、BJを訪ねてきた男は、指名手配中の息子・六平を助けてほしいと1000万円を差し出す。だが、BJは“助けたければ5000万円払え”と要求し、男は息子のため、それを受け入れた。

 六平を助けに潜伏先である小島へ渡ったBJ。手術をするために本土へ戻ろうとするが、六平は警察に捕まることを恐れ、船の船長を殺してしまう。

 結果、BJは六平とともに船で漂流することとなり、船は沈没しかけ、サメに襲われるなど2人とも命の危機にさらされる。それでもBJは六平を励まし続け、強心剤や鎮痛剤を施しながら、父親の待つ本土に戻った。だが、父親の顔を見た安堵からか、六平は息を引き取ってしまう。

 それを見た父親は激怒し、BJを殺そうとする。だがその直後、六平が書いたBJへの感謝の書き置きが見つかり、自らの過ちを悟った父親は残りの4000万円をBJに支払おうとする。しかし、BJはその金を男の顔に叩きつけたのであった。

 父親は、BJがどのような想いで六平を助けようとしたかを想像すらせず、一方的な逆恨みから殺意まで向けたのである。この行為はBJの信念と命がけの努力を完全に踏みにじるものだった。普段は高額な金を要求するBJだが、尊厳を深く傷つけられたことにより、残りの金を叩き返したのだろう。

■大手術をしたのに最後は死刑に…「約束」

 ブラックジャックが助けるのは善人だけでなく、悪人も多い。「約束」のエピソードはアラブ人の盗賊を手術する話だ。

 ある依頼を受け、他国の難民キャンプへ向かったBJ。報酬額は明かされていないものの、患者は5000万円の強奪事件を起こしたガビンこと義賊のルペペであり、高い報酬であることが予想できる。

 ルペペの体内には大動脈に達する弾丸が残っており、危険な状態だった。BJはとりあえずの処置は施したものの、設備が整っていないなかの対応では限界があったため、またオペの続きをすると彼に約束して別れた。

 そして1年後、BJはルぺぺと再会する。だが、その場所はパリの死刑囚監房だった。ルペペには死刑判決が出ていたが、それでもBJは約束として2度目の手術をおこなう。

 手術は成功したものの、その後、彼は銃殺刑にされる。最後にルペペは“BJが手術をしてくれた胸以外を狙ってくれ”と頼み、凶弾に倒れた。その後、約束の報酬を受け取るはずのBJだったが、“助けられなかった患者の手術代はいらない”と、受け取りを拒否するのである。

 BJには、“命を救えなかった患者からは報酬を受け取らない”という、独自のポリシーがある。また、ルペペが盗んだ金を貧しい人々に分け与える義賊であったことも、影響したのかもしれない。“正義なんてこの世にはない”と言い放っていたBJだが、金を受け取らなかったのは、そんなルペペの生きざまをどこかで認めていたからかもしれない。

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