■孫を助けた勇気を見せた「弁当屋のトミ」
「無限列車編」では、アニメオリジナルキャラクターの民間人が活躍した。
駅で弁当屋を営む少女・ふくと、その祖母・トミ。鬼の調査に訪れた炎柱・煉獄杏寿郎から“鬼を見ていないか?”と問われ、彼の常人離れした風貌に怯えたふくがあんパンを投げ付けるシーンは、コミカルで印象的だった。
杏寿郎は“切り裂き魔”と噂される鬼を追い詰めるも、あと一歩のところで取り逃がしてしまう。逃げ延びた鬼が次に現れたのは、ふくとトミが働く駅だった。
ふくに襲いかかってきた鬼に対し、トミは咄嗟に売り物の弁当を投げ付け応戦。しかし、逃げ足の速い鬼は再びふくを狙う。その絶対絶命の危機を救ったのが、間一髪駆けつけた杏寿郎だった。
実はトミはかつて鬼に遭遇したことがあり、ふくの母親とともに命の危機に瀕したところを、杏寿郎の父・槇寿郎に救われた過去がある。その経験から、“夜は鬼が出るから危ない”と、ふくに言い聞かせていたが、鬼の存在を知らない彼女は聞く耳を持たなかった。
祖母を手助けするため、夜が明ける前から働いていたふく。不運にも鬼に遭遇してしまうが、勇敢なトミの行動で命を救われた。この鬼は人間の食べ物に異常な嫌悪感を示したため、トミが投げた弁当が、予想外の効果を発揮したのである。
それは鬼の足を一瞬止めるにすぎなかったわけだが、この行動がなければ、杏寿郎の到着を待たずしてふくは殺されていたかもしれない。
そうなれば、杏寿郎はトミから、かつての槇寿郎の話を聞くこともなかったはずだ。「父と同じようにあなたをお守りできたこと 光栄です」と、誇らしそうに話す杏寿郎の姿、さらには、彼が弁当を頬張りながら「うまい!」と叫ぶ名シーンも生まれなかったであろう。
■人に慣れない伊之助の心を変えた「藤の花の家紋の家のひさ」
山で育ち、人間社会に馴染めなかった嘴平伊之助。彼の心を和らげてくれたのもまた、1人の民間人だった。
それが、鬼殺隊を無償で支援する「藤の花の家紋の家」の老婆・ひさだ。「竈門炭治郎 立志編」において、鼓屋敷での死闘で深手を負った炭治郎、我妻善逸、伊之助の3人は、傷を癒すためにこの家を訪れる。
まともに人間と暮らしてこなかった伊之助は、手掴みで食事をするなど、やりたい放題だった。ひさはそんな伊之助にも分け隔てなく、温かくもてなした。食事や寝床はもちろん、衣服や医者までも手配してくれる献身ぶりだった。
重傷だった3人は、怪我が癒えるまで藤の花の家紋の家に滞在する。その間、ひさは服が汚れていた伊之助を気遣ったり、彼が気に入っていた天ぷらを夕食に用意するなど、細やかな心遣いを見せた。
そんなひさの優しさに触れるたび、伊之助が「ほわほわ……」と癒されていくのが印象的だった。赤ん坊の頃に捨てられて以降、人の温もりを知らずに育った伊之助にとって、ひさの存在は、彼が人間性を取り戻す上でのキーマンだったと言えるだろう。
傷が癒え、屋敷を去る際、伊之助だけが名残惜しそうにひさを振り返る場面は、心が温かくなる粋な演出だった。
修行を積んだ鬼殺隊士でさえ、恐怖に呑まれる鬼との死闘。その過酷な戦いの裏には、民間人でありながら勇気ある行動で隊士を助け、戦いとは別のところで支えてくれた彼らの存在があった。その活躍を振り返ると、その重要性に改めて気付かされる。
もし彼らがいなければ、物語はそこで終わっていたかもしれない、そう思わせるほど大きな役割を果たした人物もいた。こうした彼らの活躍に注目しながら、作品を振り返ってみてはいかがだろうか。


