人を喰らう鬼との壮絶な戦いを描いた、吾峠呼世晴氏原作の漫画『鬼滅の刃』。7月18日に公開された劇場版アニメ『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』では、いよいよ鬼の始祖・鬼舞辻無惨との最終決戦となる「無限城」での死闘が描かれる。
そんな本作を振り返ってみると、重要な局面で鬼と戦う「鬼殺隊」を支え、活躍した民間人の存在に気づかされる。もしも彼らの活躍がなかったら、物語は違う方向へと向かっていたかもしれない。
そこで今回は、『鬼滅の刃』の作中で、実は重要な役割を果たしていた民間人キャラに注目して、彼らの活躍を紹介しよう。
※本記事には作品の内容を含みます
■炭治郎の命運を分けた「麓の家の三郎爺さん」
主人公の竈門炭治郎は、町へ炭を売りに行っていた時、鬼に家族を殺されている。普段、弟や妹と一緒に荷車で炭を売りに行くこともあったが、その日はひどい雪の日だったため、足の速い炭治郎は1人で町へ降りていた。
町で人望が厚い炭治郎は、知り合いたちの頼みごとを引き受けているうちに、帰宅が遅れてしまう。
急いで山に帰ろうとする炭治郎だったが、麓の家に住む三郎爺さんに呼び止められる。三郎爺さんは「鬼が出るぞ」と炭治郎を厳しく諫め、自分の家に泊まって夜が明けてから帰宅するように勧めた。
炭治郎は家に残した家族たちを気にかけながらも、その忠告を聞き入れ、一晩を彼の家で過ごす。
しかし翌朝、自宅に戻った炭治郎が目にしたのは、鬼に殺された家族と、唯一生き残るも鬼に変えられてしまった妹・禰󠄀豆子の無残な姿だった。
自分だけが生き延びてしまった後悔と、せめて禰󠄀豆子だけは人間に戻してやりたいという強い願いが、炭治郎を鬼殺隊へと導くきっかけとなったのである。
こうして振り返ってみると、もしあの日、三郎爺さんに制止されていなかったら、炭治郎も家族と同じく鬼に殺されていた可能性が高い。まさに彼は炭治郎の命の恩人と言っても過言ではないだろう。
とはいえ、鬼殺隊の柱である冨岡義勇と対峙した時、一矢報いた炭治郎なのだから、もし彼が家にいたなら竈門家の運命も変わっていたかもしれない。そう考えると、三郎爺さんがストーリーに与えた影響は計り知れない。
■遊郭に潜む鬼の存在を伝えた「京極屋の楼主」
音柱・宇髄天元に協力を頼まれ、遊郭に潜む鬼を探る潜入捜査をしていた炭治郎たち。その遊郭には、上弦の鬼である堕姫が、絶世の美女である花魁・蕨姫として「京極屋」に潜伏していた。
その美貌で遊郭に名を馳せる蕨姫であったが、美しいのは見た目だけで、その性格は卑劣極まりなく、店の禿(かむろ)の幼い少女に対しても激しい暴行を加えるほどであった。
そんな蕨姫の正体に最初に気づいたのは「京極屋」の女将・お三津だ。彼女は子どもの頃、茶屋の老婆から“とある花魁”の話を聞いていた。好んで名前に「姫」を用いるその花魁は、老婆が子どもの頃と中年の頃に現れ、類まれなる美貌と性悪さで知られていたという。そして、首を傾けて下から睨めつけてくる独特の癖を持っていた……と。
お三津はこの話から蕨姫がその花魁であり、人間ではないことに気づいてしまう。その結果、正体を現した堕姫に殺された。
真相は闇に葬られたかと思われたが、蕨姫の正体に気づいていたのはお三津だけではなかった。お三津の夫である楼主もまた、彼女が人間ではないと勘づいていたのである。しかし彼は、蕨姫の怒りを買うことを恐れ、関与しない姿勢を見せていた。
だが、「心当たりのあることを全て話せ」と宇髄に問い詰められた楼主は、亡き妻・お三津の無念を思い、ついに蕨姫のことを打ち明ける。この楼主の告白は、宇髄が堕姫をターゲットとして迅速に行動する上で決定的な情報となった。
楼主の命懸けの告発は、堕姫の長年にわたる悪行を終わらせる重要なきっかけとなる。蕨姫に怯えながらも、亡き妻のために真実を話した楼主の勇気にグッとくるシーンだ。


