■はたして復讐は続いたのか…「不発弾」

 ブラック・ジャックは子どもの頃、不発弾の事故で母親を失っている。彼自身は恩師の本間丈太郎の手で九死に一生を得たわけだが、あの事故で彼の人生が大きく変わってしまったのは事実だ。

 コミックス14巻収録「不発弾」では、金にものを言わせて事故を招いた元凶に復讐する話が描かれる。復讐の相手である井立原は、危険とわかっていながら不発弾が埋まっている地区の「立ち入り禁止」の立て札を取り外し、見返りに10万円をもらった男だ。

 ブラックジャックは金の力でその情報を掴み、井立原を地雷原の島に置き去りにする報復行為に出る。この島には555個の地雷を埋めたそうだが、それもまたブラック・ジャックが患者を治療した金で買ったのだろう。多くの命を救って得た金で1人の人間を追い詰める……なんだかもの悲しい話だ。

 地雷を踏んだ井立原を治療しながら、ブラック・ジャックは事故の関係者が全部で5人いること、金の力で全員に報いを受けさせる決意を語る。だが、後のエピソード「二人目がいた」で、2人目のターゲットである姥本琢三が病死したのを最後に、ブラック・ジャックの復讐劇が描かれることはなかった。

 どんなに金があっても、死んでしまった相手に復讐はできない。その虚しさは、常人にははかり知れないものがあるだろう。

 

 ブラック・ジャックは大金持ちのはずだが、普段の彼の生活ぶりを見るとそうとは思えない。服はいつも真っ黒なマントで、家はピノコから「汚い」と言われるほど古いし、贅沢している様子もまるでない。その理由は、今回見てきたように自然保護や人助け、復讐といった特殊な使い道に膨大な資産を使っているからなのだろう。

 稼いだ大金の使い方は壮大でありながら、どこか共感できる人間的な動機がある。だからこそブラック・ジャックはただの無免許医ではなく、ダークヒーローとして読者を惹きつけるのだ。

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