■令和の社会問題を予測したような作品『POCHI』
『POCHI』は、それぞれに重い秘密を抱えた少年と少女の交流を描いた作品である。
主人公の女子中学生・清香は、成績優秀でクラス委員長も務める優等生。しかし、家庭では家事や妹の世話を任され、強いストレスを抱えていた。
そんなある日、清香は犬のリードにつながれ「ポチ」と呼ばれている奇妙な少年と出会う。彼の本当の名前は斗望(トモ)といい、母親の前でだけ死んだ愛犬・ポチとして振る舞うという秘密を抱えていた。
歪んだ家庭環境で育った2人の間に芽生える友情、斗望と出会ったことで起きた清香の心の変化を丁寧に描いており、
本作は、現代では広く知られるようになった概念であるヤングケアラーを扱った作品でもある。家族のために無理をして頑張ってしまう清香と斗望。しかしその心は限界を迎えており、2人とも命を軽視している様子がところどころにあって痛々しい。
また“母親に犬として育てられた少年”という設定はインパクトが強く、一度読んだら忘れられない作品だ。
『POCHI』にはこの他にも『POCHI ~MIKE編~』という短編があり、こちらは両親が新興宗教にハマっている家庭の問題が深く掘り下げられている。
いずれも令和の現代に通じる社会問題をテーマにしており、平成中期にこれらの問題を取り上げていた小花さんの先見の明には驚かされてしまう。
ちなみに小花さんは『ちびまる子ちゃん』などで知られるさくらももこさんのアシスタントを務めた経験があることでも知られている。『ちびまる子ちゃん』は、ギャグ漫画でありながら人間の本質を突くようなテーマもあり、こうした経験が小花さん独自の作風を作る一因になったのかもしれない。
小花さんが手がけた短編はこの他にもまだたくさんある。いずれもコミカルかつダークな雰囲気も楽しめる唯一無二の作品なので、未読の人はこの機会にぜひ手に取ってほしい。


