重いけど、読者に余韻を残す後味…『猫の島』に『水の館』『POCHI』も…独特な世界観で少女たちを虜にした「小花美穂の名作短編」の画像
DVD-BOX『こどものおもちゃ』小学生編BOX1 (C)小花美穂/集英社 (C)小花美穂/集英社・NAS

 1994年から『りぼん』(集英社)で連載された『こどものおもちゃ』で知られる小花美穂さん。彼女が手がける作品は、美しくも可愛らしい描写と、登場人物が抱える心の傷や葛藤を描いたシリアスなテーマが人気だ。明るいギャグと深刻な社会問題を巧みに両立させ、人間の心の奥深くまで切り込む作風は、少女漫画界において異色の存在だといえるだろう。

 そんな小花さんは、長期の連載作品以外にも、ミステリー要素のある短編を複数発表している。ここでは独特な世界観が光る小花さんの人気短編を振り返ってみよう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■可愛いけど心に深く刺さる作品『猫の島』

 『猫の島』は“猫島”と呼ばれる島の伝説から始まるストーリーだ。猫島は、かつて毒ガス実験の犠牲となった猫の呪いがあると言われ、そこへ行った人間は二度と戻ってこないと噂されていた。

 噂の真相を確かめるため、主人公の少年・草太と、その友人・まりは、船で猫島へと向かう。そこで2人が出会ったのは、人間と猫が混ざったような存在である「半猫人(はんびょうじん)」だった。そして彼らは、幼い半猫人の女の子・ナオと交流を持っていく……という話である。

 猫耳姿のナオはとても可愛く、素直な性格をしている。草太たちとナオの交流だけの物語であればほっこりするのだが、物語はそれだけで終わらない。半猫人たちは、人間が島でおこなった毒ガス実験によって生み出された悲しい存在であり、人間との共存はできない運命にあった。

 それを踏まえると、本作は戦争が残した負の遺産や、毒ガスという非人道的な兵器、そして人間のエゴといった重いテーマを扱っており、生き物の命について深く考えさせられる作品なのである。

 人間と半猫人という異なる存在同士の友情はあまりにも切なく、ナオは最後に重い決断を下すこととなる。人間ドラマ&社会問題といった、小花さんの得意なテーマが凝縮された作品だ。

■愛憎渦巻くホラー…しかし単行本にはおまけも掲載『水の館』

 『水の館』は小花さんの代表作『こどものおもちゃ』(通称『こどちゃ』)の連載終了後に発表された短編で、『こどちゃ』の主人公・倉田紗南が出演した劇中映画として描かれている。

 あらすじはこうだ。14歳の鈴原浩人はクラスでいじめを受け、両親も事故で亡くした孤独な少年であった。生きる希望を失いかけていた浩人だが、かつて失踪した兄を探すことに生きる希望を見出し、やがて「水の館」と呼ばれる奇妙な洋館へとたどり着く。

 その館には、兄の鈴原正人、その恋人の園田真子、そして兄の友人・中川美和の3人が暮らしていた。久しぶりの兄との再会に喜ぶ浩人だったが、館に漂う異様な雰囲気と、実は彼らが三角関係の愛憎劇に囚われていること、そして、彼らの中のある人物が、すでに幽霊(または怨念)となっていることに気づくのである。

 全体的に物悲しく、ゾッとするようなシーンも多い本作。ラストもハッピーエンドとは言い難く、不幸のどん底で生きてきた浩人の境遇を思うと、読者としてはやりきれない気持ちになってしまうかもしれない。

 ただし、本作が収録された『水の館』のりぼんマスコットコミックスには「水の館 SPECIAL おまけマンガ」が掲載されており、『こどちゃ』の登場人物である紗南や、本作の出演者である加村直澄が元気いっぱいに登場し、ホラー作品である『水の館』の撮影風景がコミカルに描かれているため、少しほっとしてしまう。『こどちゃ』ファンにとってはたまらない1冊なので、未読の人はぜひ見てみていただきたい。

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