■女子のハートを撃ちぬいたイケメン狐『ズートピア』ニック
続いては、ディズニー映画『ズートピア』を振り返りたい。動物たちが人間のように暮らす世界を舞台にした本作で森川さんが演じたのは、皮肉屋で飄々としていながらも愛らしいキツネの詐欺師・ニック・ワイルド。そんなニックがウサギの警察官ジュディに少しずつ心を開き、本来の優しさを見せていく姿に視聴者は惹き込まれた。
ニックというキャラクターの魅力をより引き立てたのが、森川さんのイケメンボイスだ。その声には、色気と優しさが絶妙なバランスで溶け合っている。お館様が醸し出していた父親のような包容力とはまた異なり、軽やかな口調の中に大人の余裕とダンディな色気を纏った包容力が漂うのだ。
とりわけ、ジュディに向ける何気ないフォローの言葉や、軽口を叩く笑い声の中にさえも、ニックが持つ本質的な優しさがにじむ。ふたりの距離が縮まっていく過程で時折見せるツンデレな心情の表現も見事で、そのギャップとカッコよさには視聴者の女子もメロメロ。「付き合いたい!」という声すらあがるほど、彼女たちのハートを撃ち抜いた。
狡猾な狐でありながら人間味に溢れ、不思議な色気と包容力を放つニック。その二面性を自然に表現できるのは、間違いなく森川さんの表現力があってこそだ。
■ハリウッドスターの吹き替えもお手の物!「トム・クルーズ」
森川さんの演技力の高さはアニメやゲームにとどまらず、映画の吹き替えにもその実力が遺憾なく発揮されている。キアヌ・リーブス、ユアン・マクレガー、アダム・サンドラーなど名だたる俳優の声を担当する中でひと際強い印象を残すのがトム・クルーズだ。
トムの吹き替えを初めて務めたのは、1999年の『アイズ ワイド シャット』。キューブリック監督にとって初の試みとなる日本語版制作に際してオーディションが開催され、見事トム演じるビル役を勝ち取った。
撮影現場は緊張感に包まれ、劇中のトム同様にまるでそこに本人がいるかのようなリアルな演技を求められたという。実在の人物に声を吹き込むということで、森川さんはアニメやゲームのキャラクターとは異なる、力強くも繊細な“リアル”な声を披露。その声からは、トムのイメージに通じる誠実さや芯の強さが自然とにじみ出ていた。
森川さんの著書『声優 声の職人』(岩波新書)によると、各国語版のチェックを終えたトムが、「日本語版がもっとも素晴らしかった」と高く評価したという。以降、トムの吹き替えを務める機会も増え、2003年の『ラスト サムライ』で本格的な指名を受けて公認声優となると、その後の作品ではほぼすべての吹き替えを森川さんが担当するようになった。
さらに、通訳の戸田奈津子さんを通じて2014年の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のジャパンプレミアで念願の初対面。トムとの交流も始まり、今では来日の際にレッドカーペットを歩いたり映画を見たりするほど親交を深めている。
王道イケメンから三枚目、はたまた善人から極悪人まであらゆる役を華麗に演じ分ける森川さん。「この役も森川さんだった!」と驚くことがあるほど役への没入度が高く、声だけでキャラの背景や人柄までも感じさせる表現力を持っている。その唯一無二の声で、今後も多くのキャラに命を吹き込んでくれることだろう。