■カナエが妹や仲間に残した影響
しのぶが初登場時に「人も鬼もみんな仲良くすればいいのに」と口にしたのも、常に笑顔でいるのも、生前のカナエの意思や「まぁまぁそんなこと言わずに 姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなあ」という言葉に深く起因している。
原作漫画7巻で描かれた、胡蝶姉妹がカナヲを家族として迎えた時の回想からもわかるように、しのぶは元々やや男まさりな性格で、ムスッとした表情をしたり声を荒げることもあった。
蝶屋敷にて、炭治郎だけが「怒ってますか?」と、しのぶの笑顔の裏にある真の心情に気づいたのだが、その言葉通り、しのぶは本当は常に鬼に対する怒りに震えており、そんな自分の心を隠すかのように穏やかに微笑み続けていた。
カナエのようにあろうとすることが、逆に彼女の葛藤となっていたことを考えると、心が苦しくなってしまう。
また、カナエはカナヲの心にも影響を与えている。自分の意志で行動できなかったカナヲに対し、硬貨を投げて物事を決めるよう道を示したり、「きっかけさえあれば人の心は花開くから大丈夫 いつか好きな男の子でもできたらカナヲだって変わるわよ」と、温かい言葉をかけていた。彼女はまさに聖女のような人格者だったようだ。
さらに、『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊最終見聞録・弐』では、彼女が冨岡、不死川実弥、伊黒小芭内と同い年であったことが記されており、加えて、悲鳴嶼からは不死川が「カナエが好きらしい」と推測されている。真偽のほどは不明だが、悲鳴嶼は他の人間関係も鋭く観察しているところを見るに、あながち間違ってはいないかもしれない。
ほかにも、カナエがぶっきらぼうで誤解されやすく、行動までが速すぎる不死川を心配していたという記述もあり、本編では描かれなかった柱同士での交流もあったことがうかがえる。
いずれにせよ、カナエが生きていたら、しのぶの生き方はもちろん、柱同士のかかわり方や戦闘局面も変わっていたのかもしれないと考えるとなんとも惜しいことである。
彼女は心の底から鬼への哀れみを持っていた。当代の柱たちにはない、どこか炭治郎を彷彿とさせるその考え方は、鬼殺隊の中でも稀有なものだ。もし彼女と炭治郎が出会っていたら、『鬼滅の刃』の物語はさらに優しさに満ちたものになっていたかもしれない。