■重圧に立ち向かう凪にグッとくる『凪のお暇』

 最後は、2016年から2025年まで『Eleganceイブ』に連載されていた、コナリミサト氏の漫画『凪のお暇』を振り返る。本作は、空気を読みすぎる女性、大島凪が“お暇”をとって自分を取り戻していく姿を描いた作品で、2019年には実写ドラマも放送された。

 ある時凪は、恋人・我聞慎二の心無い言葉で過呼吸を起こし、心の糸が切れた結果、全てを捨てて人生のリセットを決意する。新天地で出会ったのは自由気ままなアパートの隣人・安良城欣(ゴン)。凪は自分とは正反対のゴンに惹かれるも、凪を追ってきた慎二も現われて不思議な関係性が構築されていく。

 凪の空気を読みすぎる性格を作り出したのは、母・夕だった。彼女は、無意識に凪に依存して支配しようとする毒親。たとえば食卓のトウモロコシを凪が嬉しそうに食べないと気分を害し、目の前で捨ててしまう。自分の思い通りにならないと感情をそのままぶつけて自分の理想を押し付けるのだが、ぱっと見は優しく見えるため、外からは見えにくいタイプだ。            

 とはいえ、実は夕も実母に支配されて自分を殺して生きてきた人物。凪を悪く言う実母の言葉で目を覚ますと、「呪いはここで打ち止め」と改心する。そんな母の孤独に気づいた凪は、彼女を責めることなく“お暇”を取って東京に行くよう勧めた。

 毒親の親もまた毒親……その呪縛は連鎖して家族を苦しめる。だが母にお暇を取らせた凪の行動は、呪縛を断ち切るきっかけとなった。

 その後、元夫・武と再会して過去の幻想からも解放された母は精神的に自立し、凪と一定の距離を置いた良好な関係を築いていく。凪もまた母との和解や多くの人々との関わりを通じて自分らしさを見つけ、ゴンとも慎二とも付き合わずに自立する道を選ぶのだった。

 母子関係、恋愛や人間関係のしがらみで揺れ動く凪に、自分自身を重ねた人もいるだろう。その心理描写が繊細であるからこそ、『凪のお暇』は心に強く残るのだ。

 

 子どもを愛せない親、あらゆる方法で支配する親……。形は違えど、親から受けたある種の呪いのようなものに、大人になっても縛られる子ども達の姿は見ていて胸が締め付けられてしまう。同時に、これらの作品は親子という変えられない関係の重さを我々に突きつけてくる。

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