親にされて嫌だったことをいつのまにか自分も…「毒親が怖すぎる」漫画3選 『血の轍』『明日カノ』『凪のお暇』で描かれた「母の呪縛」の画像
をのひなお『明日、私は誰かのカノジョ』第1巻(サイコミ×裏少年サンデーコミックス)

 近年、SNSなどでも頻繁に話題にあがる“毒親”問題。子供を愛するがゆえの行動だったり、はたまた親本人の心にトラウマや闇があったりと原因はさまざまだが、総じて子どもは心に傷を負い、親子の関係は崩壊する。それどころか、成長した子が後遺症に苦しめられるケースも……。

 近頃は、そういった毒親が登場する漫画も多い。漫画とはいえ、親が子に向ける歪んだ愛情、行動の数々は強烈で、読後には言葉に出来ない重苦しい余韻が残る。今回は、そんな毒親の怖さが描かれた漫画を振り返っていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

■歪んだ母親の愛と共依存を描く心理スリラー『血の轍』 

 『ビッグコミックスペリオール』にて2017年から2023年にかけて連載されていた、押見修造氏の『血の轍』。本作は“毒親”という言葉が生ぬるいほどの母親からの愛と憎悪を一心に受け、支配されて壊されていく息子の姿を描く衝撃作だ。 

 中学生の長部静一は、美しく優しい母・静子と父・一郎と3人暮らし。一見すると平和な家族だが、静子は異常なほど過保護で、次第にその裏に潜む支配欲と深い闇があらわになっていく。

 転機となったのは、ある夏の出来事。従兄弟のしげるとともに山に登った際、「過保護だ」とからかったしげるを静子が崖から突き落としたのだ。突き落とした直後に微笑み、かと思うとすぐさま安否を気遣うという静子の不可解な行動を見た静一には、以来、母に対する恐怖心と葛藤が芽生える。

 しかしそれでも静子を裏切れず、情緒が乱れに乱れ、ストレスが溜まる静一。静子のほうはさらに支配を強め、静一の恋愛関係をも壊していく。

 傍から見れば母と離れるべきだが、支配されている状態の静一にはそれができない。母の幻覚に苦しみ、母への拒絶と依存を繰り返しながら崩壊していった。

 そして、壊れた静一はついに一線を超える。過去の幻覚と現実が混同し、3歳の自分を殺したつもりが現実世界で目の前にいたしげるを殺して逮捕されたのだ。静子も既にしげるを突き落とした容疑で逮捕されており、しげるは母子の被害者になってしまった。

 月日が流れ、静一は36歳に。両親が離婚したため、死に取りつかれながら生きていた。だが、未だに脳裏に浮かぶのは母の姿。そんな折、警察から連絡が入り、老いた母と再会するのだった…。

 繊細で独特なタッチの絵柄は美しくも不気味で、母子の視点が交錯しながらどんどん歪んでいく強烈な描写は、読む者の心を深くえぐる。愛と支配が紙一重であることを、ここまで突きつけてくる作品はそう多くないだろう。

■現代を生きる少女達のリアルな葛藤と苦しみ『明日カノ』

 『明日、私は誰かのカノジョ』は、2019年から2023年までWebコミックサイト『サイコミ』で連載されたをのひなお氏の漫画で、2022年には毎日放送・TBS系列で実写ドラマ化もされている。

 物語は、ホスト通いやパパ活といった現代ならではの問題に染まりながらも懸命にもがく女性達の葛藤を、主人公を変えながら描いていく群像劇だ。

 主人公の多くは心に傷を負っている。その要因の1つが毒親の存在である。1章の主人公で、生活のためにレンタル彼女を務める大学生・白井雪もそうだ。

 彼女は、片方の顔から肩にかけて火傷痕がある。これは食事を用意しない母の代わりに台所に立ち、熱湯を被ったことによるもので、ポツリとこぼした“自分の子供のことを人とすらも思わない親もいる”という言葉や回想シーンからも、ネグレクトされていたことが察せられる。

 人間不信になった雪は、似た境遇の太陽と出会い親しくなっていく。雪の母が放置型の毒親ならば、太陽の母は束縛型の毒親だ。スマホを見たりゴミ箱を漁ったりするほど異常な行動で太陽を支配し、彼の神経は抉られてきたのである。

 そんな太陽との付き合いの最中、雪は久々に母と会った。そして、過去の出来事を無視する母に複雑な想いを抱きつつもやり直そうとするが、再び裏切られてしまう。

 さらに、追い打ちをかけるように悲劇が起こる。母の束縛を嫌悪していた太陽が雪を束縛するようになり、雪も雪で人間不信から抜け出せず恋が終わったのだ。

 裏切られてもなお母に淡い期待を抱く雪は、最後になぜ自分を捨てたのかと幼少期からの思いの丈をぶつける。しかし、娘の悲痛な問いにも母は逆ギレで応え、親子の縁はここで終わりを迎えることとなった。

 吹っ切れた雪は一人で歩む覚悟を決め、太陽もまた自分の足で生き直そうとする。親の呪縛に苦しみ、時に親と同じ過ちを犯しながらも必死に生きる若者達の姿は、見る者の心を締め付ける。

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