■昔と変わらない無邪気な夫婦『Paradise Kiss』山口ツトム&幸田実果子

 1999年からファッション誌『Zipper』(祥伝社)で連載が開始された『Paradise Kiss』は、主人公の早坂紫が、ミステリアスな美青年・小泉譲二と出会い、ハラハラするような大人の恋を経験していく様子が描かれている。ファッションから装飾に至るまで、洗練された“矢沢あいワールド”が見応えのある作品だ。

 本作での大人カップルと言えば、紫が初めてモデルとして仕事をしたファッションブランド「HAPPY BERRY」のデザイナー・幸田実果子と、その夫でカメラマンの山口ツトムの姿が印象的だった。

 彼らは矢沢氏のヒット作『ご近所物語』の主人公カップルだ。そこでは幼馴染のツトムとの恋や、夢を追い続ける実果子の姿が描かれ、多くのファンを夢中にさせた。

 前作では、自身の気持ちに悩んだり、ヤキモチを妬いたりと、高校生らしいフレッシュな恋を楽しんでいた2人。だが、『Paradise Kiss』ではすっかり落ち着いた大人カップルとしての魅力を見せている。

 紫をモデルに抜擢した実果子は、スタッフが提案したモデルを全て断り、彼女を選んだ。その裏話を聞いたツトムは「ごめんね〜〜実果子のやつ超わがままだから」とフォローし、場を和ませる。スタッフから「それはキミが甘やかすからやん」と突っ込まれても、屈託なく笑う姿は昔と変わらない。

 プロカメラマンのツトムとデザイナーの実果子が、阿吽の呼吸で分かり合っている様子は、わずか数ページのシーンからもよく伝わってくる。生まれた時から共に過ごし、さまざまな経験を乗り越えてきた2人。36歳になっても変わらない仲の良さと、大人らしい信頼関係が築かれた憧れのカップルである。

 

 矢沢氏の作品に登場するさまざまなカップルたち。若者らしく、もがきながら育む恋愛もいいが、歳を重ねてみると「大人カップル」の落ち着いた関係に魅力を感じる。

 主人公カップルのような、読者もドキドキを味わえる恋愛とは異なるが、しっとりとした深い愛情で結ばれた彼らは、作品に奥行きやリアリティを与えているように思う。この機会にあらためて彼らに注目しながら作品を振り返ってみると、新しい発見があるかもしれない。

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