■遠く離れていても信じ合える『天使なんかじゃない』坂本将志&牧博子

 1991年から『りぼん』(集英社)で連載が開始された『天使なんかじゃない』は、『りぼん』の黄金期を支えた不朽の名作である。新設された高校を舞台に、第一期生となった主人公・冴島翠が生徒会活動を通じて青春を謳歌する姿が印象的な作品だ。

 翠と生徒会長・須藤晃のカップルは、夫婦漫才のような軽快なやり取りと、お互いを理解し合っている雰囲気から学園内でも憧れのカップルだった。

 しかし晃はかつて教師である牧博子に片想いしており、その想いを断ち切れずにいることが、翠を苦しめる。晃の一挙手一投足に思い悩む翠の姿に共感した人も多いだろう。

 晃と翠のように燃え上がるような恋は10代ならではの良さがあり、読者は2人の恋の行方を固唾をのんで見守った。

 そんな主人公カップルに夢中になる一方、大人になってみると晃の想い人であった博子と、晃の恩人・坂本将志のカップルにも心を惹かれる。

 連載当時、恋人の博子を日本に残して海外を放浪する将志の姿にもどかしさを感じることも多かった。将志さえ帰ってきてくれれば、晃と翠はうまくいくのにと思ったものだ。

 しかし、歳を重ねると、離れていてもお互いを信じ合う2人の絆も理解できる。夢を追い、大好きな人を日本に残して旅立った将志。一方、一緒に行くという選択肢があったにもかかわらず、教師になる夢を諦めきれずに日本に残った博子。

 いつ帰るかわからない将志の帰りを待ちきれず、一度はお見合いも考えた博子だったが、将志から届いた博子の肖像画と「I Love You Forever」のメッセージを見て、彼女は再び彼の帰りを待つことを決心する。

 後に晃の尽力もあり、帰国した将志と博子は晴れて結婚。博子は教師の夢よりも大切な“将志の夢について行くこと”を新たな夢とし、共にフランスへ渡る決意を固めたのだった。

 所在も分からず、いつ帰るかも分からない恋人を待ち続けることは半端な覚悟ではできない。それでも相手の夢を尊重し、ひたすら待ち続ける博子の健気さには胸を打たれてしまう。

 離れていても信じ合える2人の姿は、大人の恋愛の1つの理想型と言えるかもしれない。

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