
1990年代から2000年代は、テレビドラマの黄金期と言える時期で、多くの作品が高い視聴率を記録した。なかでも、透明感あふれる清楚な美しさを持つ「清純派女優」が主役のドラマは、絶大な人気を誇っていたように思う。
しかし、純粋で可憐な役柄のイメージが強い彼女たちは、ときに衝撃的な変貌を見せることもある。あえて悪役を演じることで視聴者に強烈なインパクトを残し、それまでのイメージさえも一新したのだ。
ここでは、かつて“清純派”と呼ばれた女優たちが、そのイメージを覆すほどの強烈な印象を残したドラマを振り返ってみよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■美しさとは真逆の悪魔の所業…『大奥』仲間由紀恵
ストレートの黒髪、透明感あふれる美貌で知られ、『TRICK』(2000年)や『ごくせん』(2002年)など、正義感の強いヒロインを演じてきた仲間由紀恵さん。
そんな彼女が、これまでのイメージを覆す悪女を演じて大きな話題を呼んだのが、よしながふみさん原作の漫画を実写ドラマ化した、男女逆転時代劇『大奥』Season2で演じた徳川治済(とくがわ はるさだ)だ。
治済は冷淡で非道な性格であり、あらゆる謀略を巡らせ、我が子・家斉を将軍にしようとして画策する。その野望の前では実の子や、幼い子どもであっても一切容赦はしない。
作中では幼い子どもの首を冷酷に踏みつけたり、毒を盛った茶を出して血を吐く武女の様子を見て嬉しそうに笑ったりと、回を追うごとに極悪非道ぶりに拍車がかかっていった。
特に、邪魔だと思う人物に毒入りのカステラを送りつけて抹殺していく場面は、衝撃的だった。仲間さんの上品な美貌と、治済の悪魔的な所業とのギャップは凄まじく、当時見ていた筆者は胸に圧迫感さえ覚えた。
仲間さん自身、この役について“今まで演じたことのない役”、“子どもに見られちゃいけない役”と回顧しており、本人も戸惑うほどの強烈な悪役であったことが分かる。
まさに彼女の持つ清純なイメージを逆手に取ったキャスティングが、治済の恐しさを最大限に引き出させた見事なドラマであった。
■特に美しく特に哀しい犯人『古畑任三郎』松嶋菜々子
『やまとなでしこ』(2000年)をはじめとする数々の恋愛ドラマで主演を務め、その清楚な美しさで一世を風靡した松嶋菜々子さん。
そんな彼女も2006年に放送された『新春ドラマスペシャル 古畑任三郎ファイナル』の「ラスト・ダンス」にて、主役の古畑任三郎(田村正和さん)を惑わす美しき悪役を演じている。
松嶋さんが演じたのは、人気脚本家・加賀美京子こと大野かえでと、双子の姉・もみじの一人二役であった。妹のかえでにコンプレックスを抱いていたもみじは、ついにかえでを殺害。時に彼女になりすまし、その死を自殺に見せかけることで古畑の目を欺いていく…という殺人者であった。
華やかで社交的なかえでと、内向的でどこか影のあるおどおどしたもみじ。この対照的な双子を一人二役で完璧に演じ分けた松嶋さんの演技力は圧巻だった。
作中で古畑に、“特に美しく、特に哀しい犯人”と言わせたように、ミステリアスな魅力を放ち古畑とダンスをするシーンは、悪女でありながらもどこか神々しい不思議な魅力があった。
このエピソードは『古畑任三郎』シリーズのファイナルを締めくくるにふさわしい、切なくも美しいラストとなっている。これほどまでに余韻を残す魅力あふれる悪女を演じきれたのは、松嶋さんが持つ気品と揺るぎない美しさがあったからだろう。