『CALL MY NAME』に『バイバイ、リトル。』など…少女漫画家・咲坂伊緒「青春三部作」誕生前の「知られざる名作短編」の画像
『アオハライド』Blu-ray & DVD Vol.1(東宝) (C)2014 咲坂伊緒/集英社・「アオハライド」製作委員会

 少女漫画家・咲坂伊緒さんの描くラブストーリーは、誰もが経験する青春のキラキラを詰め込んだストーリーと透明感あふれる繊細なタッチの作画、そしてていねいな心理描写で多くのファンの心をつかんで離さない。

 特に、彼女の代表作でもある『ストロボ・エッジ』『アオハライド』『思い、思われ、ふり、ふられ』は“青春三部作”として有名で、人気俳優陣による実写映画化も大きな話題を呼び、それぞれ大ヒット作品となった。

 そして来たる10月31日からは、WOWOWにて実写版『ストロボ・エッジ』が初の連続ドラマ化。福本莉子さんと高橋恭平さんが主演を務める本作は2部構成で放送・配信されることが決定しており、ファンの期待も高まっている。

 今回は、そんな“実写化ヒット”の立役者でもある咲坂さんの初期作品から、知られざる珠玉の名作読み切りをご紹介しよう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■名前を呼んでほしい切ない恋を描いた!『CALL MY NAME』

 2000年に発表された『CALL MY NAME』は、咲坂さんの3作目にあたる初期作品である。

 主人公・仁科祥子は、彼女に優しく微笑むクラスメイトの浅川基喜に一目惚れしてしまう。彼女持ちの男の子を好きになるなんて不毛だと思っていた矢先、浅川が彼女と別れたことを知り、意を決して告白。2カ月前に彼女にフラれたばかりだった浅川だが、「つきあってみよっか」と、それを受け入れた。

 念願の恋人になれた祥子は、手作り弁当を用意したりと浅川に夢中だった。だが、彼の態度はどこか煮え切らず、元カノのことを引きずっているようにも見えた。そして、ついには繋ごうとした手を振り払われ、名前で呼んでほしいと頼んでも応じてくれない浅川の姿に、祥子はだんだんと自信をなくしていく。

 そんなある日、元カノからまだ浅川に未練があることを明かされた祥子は、感情を抑えきれずに浅川の目の前で元カノを叩いてしまう……。

 本作は、好きな人の本心がなかなか分からずに思い悩むヒロインの姿が、心に刺さる作品だ。誰しも一度は経験がある、“好きな人の気持ちが分からない”という祥子の悩みに、思わず共感した読者は多いだろう。

 そして、祥子のように好きだからこそ気持ちを試してみたくて別れを切り出してみたりと、青春特有の恋の駆け引きも巧みに描かれた本作。祥子の「好いた分だけ好かれたい 愛されたかった」という心の声に、思わず胸を打たれてしまう。

 すれ違いながらも不器用にお互いを思いやる2人の恋の行方は、ぜひその目で確かめてみてほしい。作中に散りばめられた点と点が繋がっていくクライマックスは必見だ。

■健気に頑張るヒロインにホロリ…『バイバイ、リトル。』

 2001年に発表された『バイバイ、リトル。』は、父親を亡くし、幼い弟と仕事が忙しい母親を支えるために孤軍奮闘する主人公・千葉愛と、幼なじみ・高橋望との心温まる恋を描いた物語だ。

 幼い頃、いじめられっ子で泣き虫だった高橋を守っていたのは愛だった。2人は高校で再会するが、愛は家庭を支えようと一生懸命になるあまり、友人たちにもなかなか本音が言えず、心を開くことができずにいた。そんな彼女を気にかける高橋は、何度も助け舟を出し、時には姿を隠して守り続ける。

 しかしある日、些細なことが原因で愛は友人たちとケンカになってしまう。唯一、愛の家庭の事情を知る高橋はこの時も助けようとするが、友人たちも「愛の口から聞きたい」と譲らなかった。

 その時、愛は覚悟を決める。かつて父親と交わした“泣かないでいい子にしてたら早く帰って来る”という約束を今でも守っていることを、涙ながらに打ち明けるのだ。

 本作の魅力は、なんといってもヒロイン・愛のけなげな姿にあるだろう。幼い頃に父親を突然亡くし、うまく受け入れることができないまま、家族を支えようと足を踏ん張って頑張り続ける愛。

 そんな彼女を陰ながら支える高橋や、愛が大切だからこそ強い言葉で本音をぶつけてしまう友人たちなど、登場人物が総じて心優しいのも見どころだ。

 ようやく本音を言って泣くことができた愛の頭を、「ちゃんといい子だったよ」と高橋が優しく撫でるシーンは、涙なくしては読めない。

 友情物語としての印象が強い本作だが、クライマックスには咲坂作品ならではのキュンとする展開も待っているので、ぜひ最後まで見てみてほしい名作だ。

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