■坊主男子とのドキドキする恋!『君ばっかりの世界』
『君ばっかりの世界』(2004年)は、少女漫画ではめずらしい“坊主男子”との恋を描いた作品だ。
主人公・吉川百合子は、野球部の瀬谷孝司に片想いをしている。中学3年生の時、大切な試合に敗北した野球部の部員たちが「悔いはない」と口を揃える中、「勝ちたかった……だから悔いだらけです」と、真っ直ぐ前を見据えて話す瀬谷に恋をした。
同じ高校へ進学し、クラスメイトになれたものの、瀬谷は何やら“かっこかわいい”と新入生の女子の間で人気になっているという。自分だけが瀬谷の魅力を知っていると思っていた百合子は、焦りを感じ始める。そんな中、友人の綾香が瀬谷に告白することになり、百合子の恋は大きく動き出すことに……。
本作は控えめなヒロインと、お調子者の坊主男子の物語だ。友人に“瀬谷を好き”と明かされ、自分も同じ人を好きだと言い出せずに友人を応援してしまう百合子。そして、偶然百合子に好きな人がいることを知ってしまい、気持ちを伝えられなくなってしまった瀬谷。
両想いなのになかなか進展しないもどかしさは、まさに王道の少女漫画である。本作でキーワードになってくるのが、瀬谷が冗談で言う「俺の頭に触ったらチューだぞ」というセリフだ。
坊主頭をおもしろがってみんなが触りたがることから、冗談で言い始めたこの言葉だが、それがやがて2人の恋を成就させる重要な役割を果たすこととなる。
相手の気持ちが分からず、モヤモヤと思い悩む時間は青春の醍醐味だろう。そんな甘酸っぱい恋を味わいたい方におすすめの一作だ。
さまざまな恋の形を描き、ファンを魅了し続ける咲坂作品たち。有名な代表作はもちろんのこと、キャリア初期に手がけた読み切りも読み応えのある作品ばかりだ。
ていねいな作画と読者を引き込むストーリーは、デビュー当時から変わらない。そんな咲坂さんの名作たちを、ぜひこの機会に見返してみてはいかがだろうか。


