■最期に心揺さぶられた『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』ハドラー
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)では、宿敵ハドラーの存在がまさに「敵にも物語がある」ことを体現していた。
バーンパレスでの最終決戦にて、かつての魔王ハドラーが超魔爆炎覇を繰り出したのに対し、ダイは父・バランと師・アバンの思いを込めた「ギガストラッシュ」を放つ。まるで3人で力を合わせてハドラーに攻撃しているかのような描写には、思わず胸が熱くなった。
その強烈な一撃によってハドラーが敗れると、そこに魔王軍の死神キルバーンが乱入し「ダイヤ・ナイン」という脱出不能の殺しの罠(キルトラップ)を発動する。こうしてダイ、そして2人を助けようと突入してきたポップとともに炎の中に閉じ込められてしまったハドラーは、敵とは思えないような姿勢を見せた。
ダイとポップがくじけかけると「最後の最後まで絶望しない強い心こそがアバンの使徒の最大の武器ではなかったのかっ!!」と奮い立たせ、自分の身を犠牲にしてまで2人を逃がそうとする。その必死でひたむきな姿は、ダイの仲間たちと何も変わらない。
特に炎から守るためにポップの体の上に覆いかぶさり、彼を生かしてほしいと人間の神に祈るシーンは、思わず心を揺さぶられた。恐ろしい敵として立ちはだかってきた過去を忘れてしまいそうになるほどだ。
そんな彼らを救ったのは、死んだと思われていたアバンである。「…困りますよポップ 勝手に“あの世”なんかに行かれちゃ…」と現れて罠を解除したアバンの腕の中で、ハドラーは「オレの死に場所を…この男の腕の中にしてくれるとは…な…!」と朽ち果ててしまう。
しつこい敵だったハドラーがこうした最期を迎えたことで、かつての魔王とかつての勇者という2人の物語も終止符が打たれたのである。
主人公をはじめとした味方だけでなく、敵側の事情や背景もていねいに描かれている作品は、読者に大きな感動を与える。皆さんは“人間味あふれる敵キャラ”と聞いて、どのような相手が思い浮かぶだろうか。