
井上雄彦氏の不朽の名作『SLAM DUNK』。本作には多くの優秀なプレイヤーが登場するが、はたして「最強エースは誰なのか」。
絶対王者・山王工業の沢北栄治、湘北を全国へ導いた流川楓、そして陵南のカリスマ仙道彰。この3人はいずれも作中を代表するスコアラーであり、その優劣はファンの間で長年議論されてきた。
だが、エースの価値は単なる得点力だけでは測れない。土壇場での勝負強さ、仲間との関係性、チーム全体を引っ張るリーダーシップといった要素も不可欠である。
そこで今回は、実際の試合描写やデータを手掛かりにこの三者を比較し、それぞれが体現する“エース像”を掘り下げながら、あらためて最強の座を考察していく。
※本記事には作品の内容を含みます
■「爆発的なスコア力」点取り屋としての三者三様
エースの最大の役割は、やはり「得点」である。
沢北の活躍が描かれた公式戦は湘北戦のみだが、後半だけで20点以上を奪取。流川との1on1を完全に制してのジャンプシュートや、鋭いドライブからの得点を立て続けに決め、その実力を見せつけた。
しかも前半早々に退いたため、ほぼ後半のみの得点だ。それでもこれだけの数字を残すあたり、インターハイという最高峰の舞台でも揺るがない完成度と安定感を示している。
一方の流川は、(描写が少ない三浦台戦や武里戦は不明だが)神奈川県予選のほぼすべての試合で2桁得点をマークし続け、そのスコアリング能力で湘北をインターハイ出場へと押し上げた。
インターハイに入ってからも、片目を負傷していた豊玉戦や、沢北と直接マッチアップした山王戦といった厳しい状況にも変わらず2桁得点を続けている。
仙道もまた、彼らに負けず劣らずの得点力を誇る。ポイントガードを務めた海南戦以外は、常にチーム随一の得点源として20点前後を安定して稼いでいる。
そして何より、湘北VS陵南の練習試合前に角田悟が口にした「去年は仙道一人に47点とられて完敗だったからな!!」という証言は衝撃だ。
こうして並べてみると、この3名はいずれも“チームの命運を左右する絶対的スコアラー”であることが分かる。
■「土壇場の輝き」勝負強さで示すエースの資格
しかし、総得点数だけでエースを語るのは早計だ。大事なのは「いつ、どのような状況で点を取るか」である。
沢北の象徴的な場面は、湘北戦のラスト10秒。深津一成からのパスを受けると、流川を一瞬の加速で振り切り、そのままジャンプシュート。遅れて跳んだ流川も、必死に伸ばした赤木剛憲のブロックも届かず、土壇場で逆転弾を沈めてみせた(その直後、桜木花道のジャンプシュートで再逆転を許すが)。日本一を狙う王者のエースにふさわしい、圧倒的な勝負強さだった。
流川は、海南戦で見せた怒涛のゴールラッシュが際立つ。前半で15点差、さらにキャプテン・赤木の負傷という絶体絶命の中、孤軍奮闘で攻め続けた。
中でも、帝王・牧紳一相手に決めたダブルクラッチは圧巻で、赤木が戻る前に同点にし、試合を振り出しに戻す。苦境でこそ火を噴く集中力は目を見張るものがあった。
そして仙道は、まさに「勝負勘の人」である。
湘北との練習試合では、残り数秒、桜木のレイアップシュートで逆転を許すも、油断した湘北の隙を突いて即座にカウンターを仕掛け、再逆転。試合をひっくり返し、勝利に導いた。
さらに海南戦でも、残り数秒で速攻を決めて同点に持ち込み、牧と互角の駆け引きを演じてみせた。勝負どころを見極め、決定的な一手を打つ嗅覚は3人の中でも随一だと言えるだろう。
このように「土壇場で決める力」においても、3人はそれぞれ異なる形でエースらしさを発揮している。