■いくつもの名前と顔を持つ…『キャンディ・キャンディ』ウィリアム・アルバート・アードレー
1975年より『なかよし』(講談社)で連載されていた『キャンディ・キャンディ』(原作・水木杏子氏、作画・いがらしゆみこ氏)。昭和の少女たちが憧れた金髪の少年「丘の上の王子さま」が登場する物語だ。
孤児院育ちのキャンディ(キャンディス・ホワイト)は、12歳で大富豪アードレー一族のラガン家に引きとられるが、さまざまな困難に直面する。そんな彼女を陰ながら見守った男性が「アルバートさん」だ。
そのアルバートさんは、肩のあたりまで伸びた茶髪、口元を覆うひげと色の濃いサングラスで顔を隠したみすぼらしい姿。12歳のキャンディに盗賊や海賊と間違われるほど、怪しいおじさんだった。
自然を愛し、束縛を嫌うアルバートは動物と放浪する自由人だが、アンソニーが亡くなってキャンディが落ち込んだ時などにはいつも救いの手を差し伸べた。
そんなアルバートは、ひげがあるときはかなりワイルドだったが、ひげがないとかなり若く見えるイケメン。身なりを整えて髪を短くした時の姿は貴公子そのもので、魅了されたファンも多いはずだ。
そんなアルバートの正体は、アードレー家の最高権力者である大総長「ウィリアム・アルバート・アードレー」。キャンディが恩義を感じていた「ウイリアム大おじさま」というのも、先代の話ではなくアルバートのことだった。
さらに6歳のキャンディが初恋をした相手「丘の上の王子さま」の正体も、実は当時18歳だったアルバートである。彼は29歳になるまで姿や名前を変えながら、キャンディを陰から支え続けたのである。
■ダンディな俳優がモデル!? 『純情クレイジーフルーツ』小田島雄一郎
松苗あけみ氏が1982年より『ぶ~け』(集英社)で連載した『純情クレイジーフルーツ』に登場するダンディキャラも印象深い。同作は、丸の内女学園を舞台に、実子(じつこ)、みよ子、桃苗、沢渡ら4人組少女が織りなす恋愛や友情を描くドタバタコメディだ。
この作品に登場する小田島先生こと小田島雄一郎は、実子たちの1年次の担任で、政治経済を担当。30代前半でヒゲを生やした疲れた雰囲気のイケメンで、女生徒にモテた。
実子も想いを寄せるが、小田島先生は教師と生徒の関係を崩さず、1年次の終わりに学園を辞めて渡米する。
しかしアメリカに渡った小田島先生は、金髪女性と結婚するもわずか1週間で離婚。翌年には日本に帰国するというダメさ加減を見せた。その後、紆余曲折を経て、いろいろな男に騙されてボロボロになった実子と結ばれる。
2002年には『純情クレイジーフルーツ 21世紀篇 もう一度夢みたい!』(集英社)が刊行。35歳になった実子たちと、ダンディさに磨きがかかった52歳の小田島先生が登場している。
余談だが、松苗氏のオマケ漫画によると、小田島先生のイメージは映画『インディ・ジョーンズ』でハリソン・フォード演じる“考古学教授”のインディとのこと。中年教授が、何の権力もなく成績もよくない女子生徒に翻弄される様子にときめき、作者のフェチ心に火をつけたようだ。
昭和の時代にリアルタイムで少女漫画を読んでいた頃、20代や30代の男性はものすごく年上の大人に見えた。落ち着きのある登場人物たちが醸し出す、大人ならではの色気や包容力に惹かれた人も多いことだろう。読者の年齢や時代によって感じ方や定義に差はあるかもしれないが、波乱の人生を送ってきた大人の人物たちは、さまざまな魅力にあふれていた。