■憎まれながらも陰ながら応援する不器用な男…『ガラスの仮面』速水真澄

 1976年より『花とゆめ』(白泉社)で連載スタートし、その後『別冊花とゆめ』に移った美内すずえ氏の名作『ガラスの仮面』。その中の主要キャラのひとりである速水真澄を取り上げたい。

 速水は大都芸能社の若手敏腕社長で、目的のためなら冷酷な手段も厭わない人物。一方、女性への対応がスマートなイケメンとして描かれ、苦渋の人生を歩む彼の憂いに満ちた横顔は、多くの女性読者を魅了した。

 幼少期に実父を亡くした真澄少年は、継父である速水英介に才能を見込まれ、厳しく帝王学を叩き込まれる。母親と再婚後も冷たい態度をとり、家族を不幸にした義父を憎む真澄は、彼が心酔する演劇「紅天女」を奪うことを心に誓う。

 月影千草から「紅天女」の上演権を奪うため卑劣な行為を繰り返し、彼女を師と仰ぐ北島マヤに嫌われた。

 しかし、その一方で真澄はマヤの演劇への情熱に衝撃を受け、「紫のバラの人」として陰ながら支援を行い、やがて愛情を抱くようになる。

 その後、マヤの母親を死に追いやってしまった負い目を持ち、自身の立場と挟まれて葛藤するように。表で憎まれ役を演じつつ裏ではマヤを支える姿に、不器用な男としての哀愁を感じた読者もいただろう。

 とはいえ、マヤが13歳の時に知り合ったためか、「おチビちゃん」と子ども扱いしながら、その一方で「どうかしているぞ速水真澄。相手は10いくつも年下の少女だぞ」と自身の彼女に対する感情に困惑。真澄の婚約者である紫織の前で、マヤに恋心を抱く桜小路への嫉妬をあらわにするなど、少々こじらせ気味なところも印象的だ。

 最新刊(49巻)時点での真澄の年齢は32~33歳と十分成熟した大人であるが、時折人間として不完全な部分を見せてくれるのも速水真澄という男の魅力かもしれない。

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