■女子高生から見た大人の修羅場…時代を超越した面白さ『淋しい大人たち』

 『淋しい大人たち』は1989年『ぶ~け』(集英社)の12月号に掲載された作品だ。

 女子高生の北山祐実は、両親の喧嘩から真面目な父親が浮気をしていることを知る。しかし、その後、祐実は偶然にも父の浮気相手・原田真理子の店を訪れ、事情を知らないまま彼女と親しくなるのだ。

 一方、夫の裏切りを知った母は、悔しさのあまり真理子の店に乗り込む。必死で止める祐実だったが、母は彼女の頬を平手打ちするという修羅場を迎えてしまう。それがきっかけとなり、真理子は町を去り、一人田舎に帰るのだった。

 この作品が掲載された当時、子どもだった筆者は、主人公の祐実の目線で物語を読んでいた。しかし今読み返してみると、いつしか母親の立場に感情移入してしまい、「一生懸命 家を磨いても 食事を作っても洗濯しても」「誰も褒めてなんかくれないのよ」「みんな当たり前だと思ってるのよ」と、呟くセリフに同情してしまった。

 本作は父親、母親、その娘、それぞれの目線で懸命に生きている姿を描いており、今読んでも時代を超越した面白さがある。ちなみに父と真理子は一線を越えていないプラトニックなものとして描かれており、その関係も令和の今なら受け入れられるのでは……とも感じた。

 離れ離れになった真理子と祐実だったが、最後はお互いに素敵なパートナーを見つけ、数年後に再会する。修羅場のような展開もありつつ、最終的に爽やかにまとまるストーリー構成は、まさしく一条氏の手腕といえるだろう。

 

 一条ゆかり氏の漫画は、とても緻密で美しい絵柄はもとより、内容も非常に面白く、わずか1ページ読んだだけでも引き込まれる魅力がある。読み切り作品ならなおさら、その短いページ数の中に起承転結が巧みに織り込まれており、読者を一気に魅了するのだ。

 ちなみに今回紹介した3作品は、いずれも『有閑倶楽部』りぼんマスコットコミックス各巻に掲載されている。また、電子版でも配信されているため、ぜひこの機会に読んでみてはいかがだろうか。

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