
1977年に松本零士さんによって連載開始された『銀河鉄道999』は、主人公の少年・星野鉄郎が機械の体を手に入れるため、多くの星を旅する物語だ。
鉄郎は母を機械伯爵に殺されて以来、自分の体を機械化し、いずれは機械化人を全滅させようと心に誓っていた。しかし、謎の美女・メーテルとともに999号の長い旅を続けるうちに、鉄郎は自分の体を本当に機械化しても良いのかと、徐々に考えが揺らいでいく。そして最終的に鉄郎は、限りある命を持つ生身の体でいたいと決断し、これまでの考えをあらためるのだ。
だが、あれほどまでに強く望んだ機械の体を、鉄郎が拒否したのはなぜだろうか。今回は、彼が機械化人になることを諦めさせるきっかけとなったであろう、いくつかの出来事を振り返りたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■自由を失うなら機械の体なんて要らない「重力の底の墓場」
「重力の底の墓場」のエピソードでは、時間を自在に操れる女・リューズが登場する。鉄郎はリューズとのやり取りで、“機械の体”よりも“自身の自由”のほうが大切だと宣言している。
ある日、宇宙空間を走る999号は脱線し、重力の底に落ちてしまう。そこに現れたリューズは、2日前に落下した列車の時間を300年も経過させ、乗員たちを死に追いやるなど、恐ろしい力を持った女性だった。
そんなリューズは鉄郎を気に入り、自分の家に無理やり連れて行く。そして「ここで暮らしてくれるなら……私が機械の体をあげるわ」と言うが、鉄郎は“自由を失うことになるのなら、機械の体なんて要らない”と、その申し出を突っぱねる。
“では、殺すといっても機械の体を受け取らないのか?”と脅すリューズに対し、鉄郎は「ぼくの未来や運命は自分で決めたい!! 他人に指図されたくはない……」「そのために死んでも後悔はしないぞ!!」と、言い返す。その強い意志に感銘を受けたリューズは、その後、鉄郎を解放するのであった。
他人から指図され、条件付きで機械の体を手にするくらいなら死んだほうがいいとはっきり答えた鉄郎。これは自由を奪われるくらいなら機械の体なんて要らないという、彼の意志の表れである。
しかし、リューズが別れ際に呟いた「でも、あなたはきっとメーテルのために自由を捨てるでしょうね」というセリフは、まるで、鉄郎が下す最後の選択を予言しているかのようであった。
■人間差別が生んだ絶望…自身の体がいいと認識した「二重惑星のラーラ」
「二重惑星のラーラ」は、機械化人だけが住む星で、鉄郎やメーテルがひどい目に遭うエピソードだ。
「完全機械化」という星に到着した999号。機械化した人だけが住むこの星の住人は全員美男美女であり、今後、死者が出始めるのは200〜300年が経ってからだという。
この星の機械化人たちは生身の人間である鉄郎をバカにし、鉄郎とメーテルを襲って剝製にしようとしたり、銃で撃って体を取り換えたりしようとする。
辛くも逃げ出した鉄郎は999号の車内で、「機械の体になると人はみんなあんなふうになるんだろうか…?」とつぶやき、メーテルに「ぼくが機械の体になる必要があるんだろうか?」と問いかけるのであった。
この回では液体水素に酔ってしまったメーテルが、意識を失う直前に“機械の体になるということは……ほんとうは、べつの目的があるから……”、“人間は機械の体になるのよ、いいえ…されるの……”と告げており、鉄郎に機械の体になることの危惧をさりげなく伝えている。
また鉄郎は、途中でラーラという機械化人に体を乗っ取られてしまうのだが、その姿のまま旅を続けるか問われると「あれのほうがいい!!」「どんなものともとりかえることのできないぼくの体だ!!」と、本来の自分の体を指差している。
そもそも、この駅では下車する必要もなかったのだが、メーテルは「あなたが機械の体をもらうときの参考になる」と言って、あえて降ろしている。
機械の体になることはどういうことか、その意味を鉄郎にじっくり考えてもらいたかったのだろう。メーテルの狙い通り、鉄郎は出発した列車内で、本当に自分は機械の体になるべきかと、真剣に悩み始めるのであった。