■国土拡大で異常気象が勃発した「ひろびろ日本」
「ひろびろ日本」のエピソードは、狭い日本をもっと広くしたいというのび太の要望から始まる話だ。
自分たちの遊び場は狭いことや、土地がないとぼやく両親の声を聞いて、“日本は狭い”とドラえもんに不満をぶつけるのび太。そこでドラえもんは「ひろびろポンプ」というひみつ道具を出し、日本列島全体を広げる。
最初は広くなった土地に喜んでいたのび太だが、自宅から学校や駅までの距離が遠くなり、次第に不便さを感じはじめる。やがて、巨大化した日本が太平洋をふさいだことで寒流も暖流もごちゃまぜになり、世界中で異常気象が勃発。その結果、農業や漁業も壊滅的な打撃を受け、世界中から食べ物がなくなる事態に陥ってしまった。
土地を広げたことが、最終的にはデメリットしか生じなかったこのエピソード。広い土地や家を持つとメンテナンスが大変と見聞きする通り、無理やり何かを広げることは相当の責任を持つことになるのだろう。そんなことはつゆ知らず、安易に日本の土地を広めてしまったのび太とドラえもんは、無責任であったと言わざるを得ない。
■作ったアリ人間による人類征服計画「ガラパ星からきた男」
てんとう虫コミックス45巻に掲載されている最終話「ガラパ星からきた男」は、のび太の軽率な行動により、人類がアリ人間の支配下に置かれかけたエピソードである。
ある日、手伝いをしてお小遣いをもらったのび太。しかし、もっと早くお小遣いを貯めたいと考えたのび太は、タイムマシンで翌月の世界へと向かう。しかし、その世界に人間の姿はなく、代わりにアリ人間が支配する世界になっていた。
のび太は未来の危機を伝えようとタイムマシンで戻るが、悪だくみを阻止しようとしたドラえもんが「ワスレバット」でのび太を殴り、彼はアリ人間のことを忘れてしまうのである。
その後、しずかちゃんから野良猫から狙われているペットのカナリアを助けてほしいと頼まれたのび太は、生物を自由に進化させられるひみつ道具「ガラパ星」の存在を知る。当初はカナリアのためだったが、やがて家事代行のためにアリを進化させようと企み、ガラパ星へと向かうのだ。
しかし、出木杉からアリの生態を聞いて危機感を抱いたのび太は、再び1カ月後の未来へ飛ぶ。そこには、地球を支配しようとするアリ人間たちがUFOに乗り込もうとしていた。
自分のお小遣いを増やすため、家事を手伝ってもらうため、そんなのび太の欲望がアリ人間という恐ろしい生物を生み出し、地球が支配されそうになるというとんでもないエピソード。
自分でやれば済む話を他人に頼ったせいで、人類は滅亡の危機に瀕したのである。また、のび太の悪事を改心させるためとはいえ、ドラえもんがワスレバットでのび太の頭を思い切り叩いているのも、見方によってはちょっと怖い。
本作はのび太が1カ月後の未来と現代を行き来するため、『ドラえもん』の中でも難解なパラレルワールドを描いた話としても知られている。
今回のエピソードは「好きな物をずっと食べ続けたい」「広々とした場所で遊びたい」「お小遣いを楽に稼ぎたい」といった些細な理由から、のび太がとんでもない行動を起こし、やがて世界が滅びかねないほどのピンチを迎えている。
現代にはまだこうした「ひみつ道具」がないため、ここまでの危機が起きることはないだろう。しかし、楽をしたいからといってとった行動が、とんでもない結末を招くケースは十分にあり得る。「急がば回れ」のことわざにもある通り、今一瞬の「楽」よりも、常に先を見据えた行動を心がけたいものである。