■おおらかな時代だから許された!? 「堂々たるお色気シーン」

 そんな楽しい番組だったが、当時の子どもが視聴時に困ることも……。

 タイトル通り、毎回のように美女が登場。その美女役は古手川祐子さん、ジュディ・オングさん、由美かおるさんといった時代を象徴する美しい女優が務めている。明智との危険な恋愛模様が描かれると同時に、とにかく「お色気シーン」が多かったのである。

 たとえば、入浴剤で濁らせた湯船での際どい露出、突然はじまる妖艶なシャワーシーン、女性の憂いを含んだ表情や唇のアップ、明智への露骨な誘惑など、昭和のお茶の間タイムである「夜9時」に堂々と放送されていた。

 新聞のテレビ欄にも「令嬢の白い肌」といった、子どもでも内容を察してしまう過激なタイトルが見られた。本作が大好きだった筆者は、親に誤解されないよう過激なシーンが出るたびにチャンネルをかえながら視聴するという、涙ぐましい努力をしたものだ。

 余談だが、同時期の『土曜ワイド劇場』の裏番組には『Gメン’75』(TBS系)、『大江戸捜査網』(テレビ東京系)などの魅力的な番組があり、筆者の周囲で『美女シリーズ』を見ていた小学生は皆無だった。

■過激描写にグロテスクなシーン満載のトラウマ回

 天知さんが主演を務めた『美女シリーズ』は全25話が制作。小川真由美(現・眞由美)さんが美しくも残虐な怪盗・黒蜥蜴を演じた第8作「悪魔のような美女(原作『黒蜥蜴』)」、コメディアンのレオナルド熊さんが不気味な椅子職人を怪演した第22作「禁断の実の美女(原作『人間椅子』)」などが特に恐ろしく、印象に残っている。

 また、シリーズ中でも群を抜いてお色気満載だった第12作「エマニエルの美女(原作『化人幻戯』)」では、美女役の夏樹陽子さんがフランスの官能映画『エマニエル夫人』をまねて籐の椅子に座っていたが、実はこれらの回の脚本を担当したのはジェームス三木さんである。

 そしてジェームス三木さんは、第17作「天国と地獄の美女(原作『パノラマ島奇談』)」(1982年放送)の脚本も担当。3時間枠(本編2時間22分)で放送されたその長編は、お色気シーンとグロテスクな描写が満載のトラウマ回だった。

 このエピソードでは、伊東四朗さんが一人二役に挑戦。伊東さんは役者としても有名だが、当時子どもだった筆者にとっては「電線マン」でおなじみの“ベンジャミン伊東”であり、コメディアンのイメージが強かった。

 そんな伊東さんが『美女シリーズ』で演じた、島の建設の夢に取り憑かれたデザイナーは、自分とうり二つの大富豪の遺体を掘り起こして、その人物になりすますのだが、狂気に満ちた演技が怖かった。

 その後、明智によって真実を暴かれた連続殺人の真犯人の女性は、「女王にふさわしい死に方をします」と宣言して部屋の中央に置かれた大きな筒に入り込む。

 そして明智に「好きでした」と想いを告げた真犯人は、花火とともに夜空へと打ち上げられて爆発。地上には血の雨が降るというエキセントリックな結末を迎えるのだ。

 血の雨とともに、赤く染まった千代子の白いドレスが降って来るのだが、その大惨事の中で明智だけはクールな表情を崩さなかったのが印象深い。当時小学生だった筆者にとって、今も忘れられないトラウマ回である。


 1985年7月27日、天知茂さんはクモ膜下出血により54歳の若さで逝去された。以降『美女シリーズ』の明智役は北大路欣也さん、西郷輝彦さんへと受け継がれていったが、個人的にはやはり天知茂さんの演じる明智小五郎が忘れられない。

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