
今年2025年は、本格推理小説家・江戸川乱歩の没後60年の年となる。乱歩作品は綿密なトリックと幻想的な世界観に定評があり、推理モノ以外にも怪奇・幻想小説など幅広く手がけている。
彼が生み出したキャラクターの中で特に有名なのが、変装の天才で大怪盗の「怪人二十面相」と、そのライバルの名探偵「明智小五郎」ではないだろうか。
明智小五郎は、1925年(大正14年)に発表された『D坂の殺人事件』で初登場。今から100年も前に誕生した人物である。鋭い観察眼と明晰な頭脳で難解事件を解決し、横溝正史が生み出した「金田一耕助」や、高木彬光の「神津恭介」と並ぶ、「日本三大名探偵」として知られる。
明智小五郎が登場する推理モノは人気を博し、アニメ、映画、ドラマ、舞台など、さまざまなジャンルで「明智小五郎」が活躍している。
そして昭和のドラマファンにとっての明智小五郎といえば、『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日系)で放送されていたテレビドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ』を思い浮かべる人も少なくないだろう。
「ちゃらららぁ~♪」ではじまる印象的なテーマ曲、当時を彩るトップ女優の官能的な演技、乱歩作品の退廃的な世界観を昭和50年代風にアレンジするなど、革新的なテレビドラマであった。
今回は、今もなおファンの間で語り継がれる『江戸川乱歩の美女シリーズ』を振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■クールでニヒルな天知版「明智小五郎」
『江戸川乱歩の美女シリーズ』は1977年から1994年までの約17年間、土曜の夜9時から放送されていた人気ドラマだ。
同番組が放送された『土曜ワイド劇場』の枠では、ほかにも市原悦子さんの『家政婦は見た!』や『西村京太郎トラベルミステリー』といったサスペンスやミステリードラマが人気を博した。
『江戸川乱歩の美女シリーズ』を確たる地位に押し上げたのが、『非情のライセンス』でハードボイルドな主人公・会田刑事を演じた名優・天知茂さん。放送当時46歳だった天知さんは、同ドラマシリーズの初代・明智小五郎役を演じた。
『美女シリーズ』の第1作目となる「氷柱の美女」にて、ニヒルな渋さとクールな演技で、昭和のお茶の間に新たな明智小五郎像を届けたのである。
なお天知さんは、1968年に公演された美輪明宏さんの主演舞台『黒蜥蜴』(原作:江戸川乱歩、脚本:三島由紀夫)でも明智小五郎役を演じていた。つまり天知さん演じる「明智小五郎」は、美女シリーズの放送より9年も前からファンに愛されていたのである。
■江戸川乱歩作品を昭和風にアレンジ
テレビドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ』の魅力といえば、やはり乱歩作品のどこか薄暗く官能的なイメージの世界を現代風にアレンジした点だろう。
原作では子どもだった「小林少年」を当時26歳の青年だった大和田獏さんが演じたのも、そのひとつかもしれない。彼らが所属する「明智探偵事務所」も原作のダークでシックな印象とは異なり、ブラインドから陽光が差し込む明るいオフィスになっていた。
作中に用いられる電子機器、ファッション、文化などもドラマ放映時(昭和50年代)の流行が取り入れられ、当時子どもだった筆者も違和感なく楽しめた。
また、明智の盟友でちょっと抜けた波越警部役を、元「ザ・ドリフターズ」の荒井注さんが演じたのも、昭和の子どもにはうれしいポイントである。
明智の変装は見せ場のひとつだが、直前までどう見ても別人だったのに、顔の変装をベリベリ外して投げ捨てた瞬間、整った髪形としわのない背広、さらに革靴に履き替えて登場する姿に、子どもながら毎度ツッコまずにはいられなかった。