
昭和のジャンプ黄金時代を彩った、新沢基栄氏のギャグ漫画『ハイスクール!奇面組』。主人公・一堂零率いる5人組の「奇面組」が、愉快な学校生活を送りながら、周囲をハチャメチャに巻き込んでいく物語だ。
前身となる中学生編の『3年奇面組』が1980年に連載開始されてから、2025年で早45周年を迎える。零たちが「一応高校」に進学となり、タイトルは『ハイスクール!奇面組』へと変更された。
「奇面組」の5人は、ワイワイと騒ぐシーンになると二頭身のデフォルメキャラとなるのが特徴で、周囲の人物たちもなぜか彼らにあわせてしゃがみ込んで話しかけるという演出は斬新だった。
さて、そんな『ハイスクール!奇面組』において、本作の魅力であるギャグ要素だけでなく、思わず胸がキュンとなるような懐かしくも「甘酸っぱい恋愛回」に焦点を当てて振り返ってみよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■唯が誰にチョコを渡すのか気になる「かってにバレンタイン」
まずは、アニメ第14話の後半パートで放送された「かってにバレンタイン」である。
バレンタインデー前日、ヒロインの河川唯と親友・宇留千絵はチョコレートを買いに行く。
その帰り道に奇面組が登場するのだが、彼らは揃いも揃ってバレンタインデーを知らない。出瀬潔にいたっては「新種のスタミナドリンクでしょ」と勘違いし、冷越豪も「なるほど、そうかそうか」と納得してしまう有様で、なんとも呆れたものだ。
一方、千恵は唯の本命チョコが気になって仕方がない。零だと予想して聞いてみても、唯ははぐらかすばかり。ちなみに、そんな千絵自身はチョコをもらえない男子を気遣い、クラス全員分を用意する優しい配慮を見せていた。
そして、バレンタイン当日。一緒にお弁当を食べていた2人だが、唯は緊張からか食欲がなく、席を立ってしまう。その様子を見た千絵は、ますます唯が誰にチョコを渡すのか気になり、こっそりと後をつけるのだ。
校舎裏で唯がチョコを手渡していた相手は、校内屈指のイケメン・切出翔だった。唯は零のことを好きだと信じていた千絵は、親友と思っていた自分に何の相談もなかったことにショックを受ける。そして、事情を知らない零にも八つ当たりしてしまうのだった。
だが、これには真相があった。実は、他の友人が切出に直接チョコを渡すのが恥ずかしいからと、唯に頼んだだけだったのだ。しかも、唯は奇面組メンバーには手編みの帽子を、親友の千絵には色違いでお揃いの手袋を用意していた。
唯の純粋な優しさと友情に気づかず、派手に誤解をしてしまった自分の過ちを恥じ、素直に謝って抱きつく千絵。この友情模様にもジーンとしてしまう。
バレンタインデーが、恋人や好きな人だけではなく「大切な人」への感謝を伝える日であることを教えてくれるこの名エピソード。唯と零の関係を心配する千絵の気持ちも分かってしまうだけに、非常に微笑ましかった。
■くしゃみをトキメキと勘違い? 千絵の淡い恋心が可愛い「ときめき千絵ちゃん早春恋愛記」
第15話「ときめき千絵ちゃん早春恋愛記」も、千絵がメインのエピソードである。
教室の黒板に描かれた切出翔と千絵の相合傘。誰かのいたずらだと思った唯が消そうとするのだが、実はこれを書いたのは恋のおまじないをしていた千絵自身だったことが判明する。
茶化しに来た奇面組をいつものように一蹴したあと、切出への恋心を唯に打ち明ける千絵。このとき、いつものダミ声とは打って変わって、可憐な乙女の声色になっているのが非常に面白い。
千絵によると、ある日、切出の姿を見たとき、恋をするときの「キュン」という“乙女のため息”のような音が聞こえてきたという。「いたずらな青春は ある日突然一人の少女を 恋という危険な落とし穴に誘い込んでしまうものだわ……」と、ポエティックな名言が飛び出してしまうほど、千絵は切出にのめり込んでいた。
さっそく千絵はラブレターを渡そうとするのだが、肝心の切出は、3人の女子と順番にデートの約束をしている最中。その軽薄な姿に一度は我に返る千絵だったが、今度は不良グループ「番組」の番長・似蛭田妖にときめいてしまう。しかし、大勢にケンカを挑まれ、真っ向勝負で立ち向かっていく似蛭田の危険さにもついていけないと、ここでも我に返る千絵。
その後も、千絵は次々と「キュン」とときめき続けるのだが、一連のこの「胸キュン」の正体は、風邪を引いた零のくしゃみが「キュイン」という擬音になっており、たまたま近くでイケメンたちに見とれていた千絵が、それを自分の胸のときめきだと勘違いしていただけということが判明する。
本作のメインヒロインは唯なのだが、このエピソードで千絵が頬を紅く染めながら恋に対して熱弁する様子はとても可愛らしく、甘酸っぱい青春の一コマとして描かれている。