■精神的にも大きな成長を遂げた『ときめきトゥナイト』アロン=ルーク=ウォーレンサー
1982年から12年にわたって連載が開始された、池野恋氏の『ときめきトゥナイト』。本作は3部構成で描かれた長編ファンタジー漫画で、「りぼん黄金期」を支えた立役者とも言える作品である。
物語の主人公は、吸血鬼の父と狼女の母の間に生まれた魔界人の少女・江藤蘭世。そして、彼女が物語冒頭から想いを寄せているのが、同級生の真壁俊である。ちょっと不良でぶっきらぼうだが、それでも優しく男らしい俊は、当時、多くの読者を魅了した本作の絶対的なヒーローであった。
そんな本作にも、忘れてはならない「当て馬キャラ」が登場する。それが、俊の双子の弟にして魔界の王子・アロン=ルーク=ウォーレンサーだ。
偶然、蘭世と出会ったアロンは彼女に一目惚れし、以降、王子という立場を使ってあの手この手で彼女を手に入れようと奔走していく。
登場当初のアロンは、非常にわがままで自己中心的な言動が目立つキャラクターであった。その背景には、幼い頃に母・ターナを亡くしたという思い込み(実際には人間界で生きていた)や、王子として何不自由なく育てられた環境があった。蘭世と俊の恋路の邪魔ばかりする彼を、面倒なキャラクターとして認識していた読者は多いだろう。
しかし、アロンは1部の終盤、冥王との戦いで俊と共闘し、魔界を守った。それまで妬んでいた俊ともきちんと和解。そして、父親の死後は王位を継承し、若くして魔界の平和を背負う立派な王となるのである。
さらに、アロンの人生において大きな転機となったのが、婚約者・フィラの存在だ。一途に自分を支え続けてくれた彼女の愛に気づいたアロンは、フィラと結ばれ、第2部以降では、娘・ココを溺愛する良き父親、そして妻を大切にする良き夫としての姿が描かれた。
残念ながら蘭世との恋は叶わなかったが、最終的に自身を愛してくれる女性と家庭を築き、穏やかな幸せを手に入れたアロン。登場当初からは想像も付かないほど、人間的にも大きく成長を遂げた「イイ男」ではないだろうか。
■想いを込めた名曲が切ない…『天使なんかじゃない』中川ケン
矢沢あい氏の出世作であり、1991年から連載された『天使なんかじゃない』。新設された高校を舞台にした本作は、主人公・冴島翠と仲間たちが織りなす青春物語だ。恋愛、友情、夢に悩みながらも成長していくキャラクターたちの姿が等身大で描かれており、読むたびに元気をもらえる作品である。
本作に登場する当て馬キャラが、中川ケンである。ケンは翠の中学時代からの友人で、明るく誰からも好かれる人気者。翠にとっては親友であり、よき理解者でもあった。
しかしケンは、中学時代から翠に友人以上の感情を抱いていた。そしてケンは自身が出演するクリスマスのライブに翠を誘い、「ずっと好きだった 何度も あきらめようとしたけどだめだった」「でも その日翠が来なかったら 今度こそ本当に あきらめるよ」と、自分の恋にケジメをつける覚悟で告白をするのである。
そんなケンの告白は、予期せぬ形で実を結ぶ。翠は本命の須藤晃と北海道旅行にいく約束をしていたが、晃が別の女性のところへ駆けつけてしまったことで予定は白紙に。失意の中、翠はケンから呼ばれたクリスマスライブに足を運ぶのであった。
失恋した翠を優しく支えてくれるケン。交際が始まり、穏やかな時間を過ごす2人だが、結局、翠は晃への想いを断ち切れずにケンとの別れを選ぶ。
まさに「当て馬」となったケンだが、彼のイイ男ぶりが分かったのはその後だ。結果的に翠に振り回される形になったケンだが、彼は翠を一切責めることなく、今までと変わらない親友として彼女を支えていく。
やがてケンは、バンドでメジャーデビューをする夢を叶える。彼の代表曲となったヒット曲「天使のほほ笑み」は、翠を想って作った楽曲だった。「大好きな あの娘」「あの娘の 笑顔は あふれる光」と紡がれたこの曲には、彼の消えることのない一途な想いが込められているように感じられる。
どこまでも一途で優しく、誰よりも翠を想い、大切にし続けた彼は、本作屈指のイイ男だと言えるだろう。
今回は、90年代の『りぼん』黄金期を彩った名作の中から、ヒーローに勝るとも劣らない魅力を持つ「当て馬キャラ」を紹介してきた。ヒロインに一途な想いを向けるものの、最終的には彼女の本当の幸せを願って身を引くことを選んだ彼ら。その存在が物語に深みを与えたことは間違いないだろう。
そんな彼らが大切な人を見つけたり、夢を叶えて幸せな未来を歩む後日談を見て、ホッと胸をなで下ろしたファンは多いのではないだろうか。