■あの名言にも気になる謎が…

 漫画史に残るラオウのセリフといえば、もちろん「我が生涯に一片の悔いなし!!」である。しかし、第2部にて、ラオウには修羅の国に渡り、兄カイオウと戦うという目的があったことが判明。やり残したことがあるにもかかわらず、この言葉を発したのは、一見矛盾しているようにも映る。

 作者がここで完結する予定だったことを明かしているため、それも仕方がないのかもしれないが、ラオウにとって「悔いなし」とは単なる勝利や目的達成ではなく、戦士としての生涯を全うし、ケンシロウという後継者に自らの意志を託せたという達成感を意味していると捉えれば、このセリフもさらにエモーショナルなものとなる。

 ユリアについても、その存在は単なるヒロインの枠に留まらなかった。

 彼女は「南斗最後の将」として北斗と南斗をつなぐ媒介者であり、家系や血統も複雑である。長男がリュウガで異母兄弟にジュウザがいる。しかし、ユリアが選ばれたのは父方が正式血統であり、ユリアのほうがそれを色濃く受け継いでいたということだろう。

 最後は、最終話後のリンとバットの行方についてだ。

 ケンシロウに救われた2人は、互いの想いを確かめ合ったが、物語ではその後の生活は描かれない。しかし、リンがケンシロウではなくバットを選んだことは、戦乱の世を生き抜いた若者たちの「新しい未来」の象徴であり、恐らく平穏な生活を手に入れたと考えられる。作者がそこで筆を置いたのは、救世主伝説の後の人々の日常を、読者の想像に委ねたからではないだろうか。

 

 『北斗の拳』はこうした数々の謎を残しつつも、長年にわたりファンを惹きつけてやまない作品である。最新の映像美でよみがえるケンシロウの旅は、往年の読者には懐かしさを、新世代の視聴者には新鮮な衝撃をもたらすに違いない。

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