
テレビアニメにおいて、それまでの物語の要約やスケジュール調整など、さまざまな目的で放送される「総集編」。
基本的には過去の映像を再編集したものであり、続きのエピソードを楽しみに見ていた子どもの頃は「なんだ総集編か」とガッカリしたもの。しかし、中には新規カットや新演出を加え、我々を楽しませてくれる作品もある。
その一つが、1984年に設立され『新世紀エヴァンゲリオン』などの名作を世に送り出してきたアニメ制作会社『GAINAX(ガイナックス)』の作品だ。残念ながら2024年に40年の歴史に幕を下ろしてしまったが、庵野秀明氏をはじめとする名だたる監督による作品群は「総集編」だけ見ても挑戦的なものだった。
今回は、そんなGAINAXがアニメの総集編に織り交ぜた、斬新な演出と試みを振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■賛否両論だった?『 エヴァ』の作風を色濃く残した恋愛アニメ『彼氏彼女の事情』
1996年に『LaLa』(白泉社)で連載された、津田雅美氏の代表作『彼氏彼女の事情』。
前半は主人公・宮沢雪野と有馬総一郎のピュアな恋愛、有馬の中に潜む闇が露見する後半からは、登場人物のトラウマやコンプレックスといったダークな側面が描かれるというストーリー性の深い作品である。
1998年には、GAINAX制作のアニメがテレビ東京系列で放送された。監督を務めたのは庵野秀明氏で、『エヴァ』後に手掛けた初のラブコメ作品として大いに注目が集まった。
アニメ化されたのは原作(全21巻)の8巻あたりまでで、全26話で構成されており、色抜き・実写背景・紙芝居調の「劇メーション」・原作画の使用など、かなり斬新な演出がされていた。最終回には「つづく」というテロップが差し込まれていたものの、続編は制作されていない。
そんな本作で制作され、賛否両論を生んだのが「act14.0」の総集編だ。
この総集編は、あらすじを語るナレーションの後、BGMとともに物語の映像が繋ぎ合わされていくというもの。キャラのセリフはなく、基本は文字と映像の繰り返しで物語が進行する。
あらすじは各話ごとに分けられているのだが、その際の演出がこれまた斬新であり、「act1.0」といったタイトルとともに、「総カット数」「総作画枚数」「平均視聴率」、さらには「番組独自の視聴者アンケート(おもしろいか)」が映し出されたのである。
作画枚数は平均2000〜2800枚程度であったが、中には「act6.0」の697枚という異様に少ない回もあった。視聴者がアニメ制作の裏側を垣間見ることができる、前代未聞の試みだったと言えよう。
■コアな人気を誇るロボットアクションの超大作『天元突破グレンラガン』
2007年にテレビ東京系列で放送された『天元突破グレンラガン』は、GAINAX初の単独制作アニメで、今石洋之氏が監督を務めている。
地震に怯えながら地中で暮らしていた少年・シモンが仲間と出会い、壮大なスケールの戦いの中で成長を遂げていく姿を描いた作品で、ロボットアニメ史に残る名作として今なお根強い人気を誇っている。
全27話の物語は4部構成となっており、2部と3部の間の16話には「総集片」が差し込まれた。「編」を「片」と表現していることからも、これがただの総集編ではないことがうかがえる。
エピソードは、サブタイトル文字を書く今石監督の手元を映した実写映像から始まる。鉛筆で書かれていく力強いタイトル文字が、これから始まる熱い物語への期待を高める。
本編は疾走感のあるBGMを背景に、物語のガイドや登場人物の心情が実写の文字として画面に現れ、それに呼応するかのように名セリフや名場面が流れていくという構成だ。
実写×アニメを融合させたこの映像は、斬新かつクールで、見ていてテンションが上がる。総集編までも熱い……それこそが『天元突破グレンラガン』の魅力だろう。
極めつけは、エンディングで流れるイメージボード。フルカラーの美しいイラストに視聴者からは「欲しい」との声が寄せられ、後にムック本が発売されるほどの反響を呼んだ。
2008年には1話からシモン復活及び四天王撃破までの総集編となる劇場版『紅蓮篇』が公開され、翌年にはラストまでの総集編『螺巌篇』が公開された。
テレビシリーズをブラッシュアップした2本建ての総集編という位置づけではあるが、特に「螺巖篇」は物語の展開が一部変更。新カットの連続でテレビ版をさらに上回る熱量を生み出しており、見応えのある圧巻の作品となっている。