■偶然が招いた、あまりにも残酷な親子対決

 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に登場したグエル・ジェタークも、「親殺し」という十字架を背負うことになった人物だ。

 グエルは、父のヴィム・ジェタークが経営する「ジェターク社」の跡取りとして、アスティカシア高等専門学園に君臨。しかし、学園内で行われるMSを用いた決闘で連敗するという失態を重ね、父から退学を勧告された。

 そして学園から姿を消したグエルは、アルバイト先の気のいい仲間たちとともに、のびのびと建設業務に従事する。父の期待も名門の肩書も無関係な日々を過ごすのだった。

 しかし不運なことに、職場の輸送船が突如としてテロリストの襲撃を受けてしまう。テロリスト所有のMS「デスルター」を強引に奪い、輸送船を脱出したグエルだが、直後にMS「ディランザ・ソル」の襲撃を受けて窮地に追い込まれる。

 通信妨害で敵機と交信できないまま猛攻にさらされ続けるグエル。やがて「死にたくない……!」と涙を浮かべながら決死の反撃を行い、そのヒートナイフはディランザのコックピット付近に突き刺さった。

 接触回線でグエルが自身の名を名乗ったあと、相手の機体から返ってきたのは「グエルか……無事だったか……探したんだぞ……」という父親の声。それも攻撃した息子に対する恨み節ではなく、無事を喜ぶ父親としての言葉だった。

 瀕死のヴィムが告げた衝撃の言葉に動揺しながらもグエルは父に脱出をうながすが、直後にディランザは爆散した。

 学園で何もかも失ったグエルを待っていたのは、自身の手で父まで失うという過酷な運命だったのである。グエルもヴィムも互いに誰が乗っているのか分からない状況で起こった悲劇であり、あまりにも残酷すぎる展開に視聴者もぼう然とするほかなかった。

 

 それぞれの親子間に大小の確執があったとはいえ、子どもが実の親を殺めるという展開は見ていて胸が痛くなる。戦争を舞台に描いた作品の多い『ガンダム』シリーズでは、今後もこのような悲劇が起こってしまうのだろうか。

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