■親子のすれ違いが引き起こした「最悪の悲劇」
『機動戦士ガンダム00』に登場するアンドレイ・スミルノフは、地球連邦政府直轄の独立治安維持部隊「アロウズ」に所属するパイロット。彼もまた、自らの意思で実の父親に引き金を引いてしまった人物である。
幼いころ、軍人である母を戦場で亡くしたアンドレイは、父であり当時の指揮官だったセルゲイ・スミルノフが「軍務を優先して母を見殺しにした」という誤解を抱いていた。
実際のところは戦局上やむを得ない状況であり、セルゲイとしても、より多くの命を救うための苦渋の決断だったが、その真実をセルゲイは息子に打ち明けなかった。何も知らないアンドレイは、父への憎しみが拭えぬままアロウズの一員となり戦場に繰り出すのである。
やがてアンドレイは、軌道エレベーターを占拠するというクーデターが起こった「ブレイク・ピラー事件」の現場にて、クーデターの首謀者とともにいたセルゲイを目撃する。
このとき、セルゲイはクーデターを阻止するために奔走していたのだが、そんな事情を知らないアンドレイは「セルゲイがクーデターに加担した」と誤解して激怒。セルゲイは説得しようとしたが、アンドレイは聞き入れず、父が乗るMSのコックピット付近をビームサーベルで貫いてしまうのだった。
誰よりも平和を願っていた母の想いに報いるため、「せめて肉親の手で葬ろうと考えたのは、私の情けだよ」とアンドレイは事件を振り返ったが、のちにセルゲイの真意を知ることとなる。
父の自分に対する想いを知った際、アンドレイは「言ってくれなきゃ、何も分からないじゃないか!」と悔恨の涙を流すのである。
結果的に息子が父親を討つという悲劇を招いてしまった背景には、さまざまな要因が絡み合い、アンドレイの行動だけを責めるのは少々酷かもしれない。「対話」こそが作品の最大のテーマである『00』において、親子間でその機会を得られなかったことがあまりにも痛ましかった。