今観ても心が揺さぶられる…ドラマ 『北の国から』が描いていた「女たちの切ない物語」の画像
『北の国から』FOD番組ページより (c) FujiTelevision Network, Inc. All rights reserved.

 8月11日からフジテレビ系「ハッピーアワー枠」で再放送されていた名作ドラマ『北の国から』が、8月29日に最終回を迎えた。今回の再放送はテレビドラマシリーズの全24話ということもあり、「このままスペシャルドラマも」との声も寄せられている。

 今なお愛され続けている『北の国から』は、黒板家の絆と成長を軸に展開していく人間ドラマだ。ただその一方で、この作品では黒板家に関わる人たちの物語も丁寧に描かれている。実力ある俳優たちが脇を固めた本作にあって、彼らの生き様もまた見ごたえのあるものだった。

 その中でも、本作に登場する女性キャラは、とても印象深い人物ばかり。今回は、『北の国から』テレビドラマシリーズで実力派女優たちが演じた、記憶に残る「女たちの物語」を振り返ってみたい。

※本記事は作品の内容を含みます。

■親子の切ない別れに涙した「令子」

 物語は、東京に住む黒板五郎(田中邦衛さん)が、妻との別居を機に幼い純(吉岡秀隆さん)と螢(中嶋朋子さん)を連れて自身の故郷・北海道の富良野に帰るところから始まる。

 家族が離れる原因となったのは、いしだあゆみさん演じる妻・令子の不倫だった。その衝撃シーンが描かれたのは第4話のこと。

 あるとき、早く帰宅した五郎は、父の帰宅を喜ぶ螢とともに令子を驚かせようと彼女の働く美容室を訪ねる。しかし、そこで見たのは不倫相手の吉野信次(伊丹十三さん)とベッドに横たわる令子のあられもない姿だった。幼い螢にとって、これほどショッキングな場面はないだろう。

 半年後、令子は家を出て行くが、後に弁護士を通して子どもたちを連れ戻そうとする。不倫のことを知らない純が揺れる一方で、不信感を募らせる螢は父の元を離れようとはしなかった。

 第17話では、そんな親子に決定的な別れが訪れる。令子が、弁護士を連れて正式な離婚話をしに来たのだ。五郎は子どもたちに事実を告げ、二人が望むならば母と暮らしてもいいと判断を委ねたが、小学生にはあまりに辛い選択である。

 母と再会し喜ぶ純と、顔を伏せ会話もしない螢。純はそんな螢を「冷血動物」と罵るが、彼女の悲し気な表情は辛く、我々視聴者の胸を締めつける。

 やがて令子の帰宅日が訪れるが、見送りに来たのは五郎、純、雪子おばさん(竹下景子さん)だけ。だが、汽車に乗り込んだ令子が外を眺めていると、空知川沿いを走る子どもが目に飛び込む。螢である。目に涙をいっぱい溜めながら懸命に列車を追いかける螢を見た令子は、窓を開けて「螢〜!!」と叫び、目いっぱいに手を振るのだった。

 その後、令子は吉野と暮らすも病が悪化し、間もなくこの世を去るが、どんな状況でも子どもたちに会うときだけは心から嬉しそうで、涙を流していても笑顔を絶やさない母だった。母を憎しみながらも恋しさを募らせ、その苦しさを誰にも言えなかった螢の感情が最後に溢れ出した別れのシーンなど、今もなお視聴者の心を深く揺さぶり続けている『北の国から』は、いしださんの名演技なしでは語れないものだ。

■ミステリアスで美しい「涼子先生」

 登場人物の中でもひときわ不思議な余韻を残した人物が、谷涼子先生を演じた原田美枝子さんである。

 東京の小学校から純たちの通う中の沢分校に赴任してきた涼子先生は、物静かで優しく、そしてミステリアスな女性だった。黒板家を気にかけてくれ、生徒からも好かれていたが、一方で教え子が自ら命を絶ったという暗い過去を持ち、第15話では「先生の暴力が原因で命を絶った」という怪文書が出回りトラブルにも発展してしまう。

 そんな涼子先生を語る上で欠かせないのが「UFO」だ。印象的なのは14話での出来事。純と笠松正吉(中澤佳仁さん)と螢がベベルイの森でオレンジに輝くUFOを目撃し、その場所から涼子先生が現われたのである。 

 宇宙人疑惑が持ち上がる涼子先生はその後、第19話で宇宙人と友だちだと語り、UFOを見たがる螢を連れてベベルイの森へ。螢はそこで、葉巻型の巨大な母船と、それと交流する先生を見たという。

 盛り上がる螢とは裏腹に夜中に子どもを連れ出したことが騒ぎになり、さらには純がうっかり雑誌記者に話したことでマスコミにも取り上げられる。その結果、先生はバッシングを受け、螢は嘘つき扱いされてしまった。

 その後、先生は再び移動になり、後ろめたさのあった純は最後にUFOを見たいと告げる。先生は真っすぐな瞳で約束を交わすが、純は熱を出して行けず。夢の中で彼は、歌いながら木に寄りかかる涼子先生が母船に吸い込まれていくところを目撃する。そして後日熱が下がると、先生は町から姿を消していた。

 光に照らされる涼子先生は幻想的で、この別れのシーンは「もしかして本当にUFOとともに消えたのでは」と思わせるほど美しくどこか切ない。

 ヒューマンドラマの中に突如挿し込まれたオカルト展開は、視聴者に強烈なインパクトを与えた。今なお、80年代のドラマならではのこの話が忘れられないという視聴者も多いのではないだろうか。ちなみに涼子先生は『2002遺言』で再登場する。

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