
「ストップモーションアニメ」とは、静止している物体を少しずつ動かして撮影し、それらを組み合わせることで動いているように見せる技法。素材はさまざまで、人形や切り絵、クレイ、砂などが使われる。
ストップモーションアニメの動きは通常のアニメと比べてカクカクとしているが、それがまた味を出しており、独特の魅力がある。また手作り感やあたたかみが感じられるからか、子ども向けの作品も多い。
筆者も幼い頃そうした作品をよく観ていたが、その思い出を振り返るときセットのように思い浮かんでくるのが、たまに出てきた“トラウマ回”。普段はほのぼのと楽しんでいたからこそ、突然怖い展開になったときのことが、強烈に記憶に残っているのだ。
※本記事には各作品の内容を含みます
■しばらく夢に出てきそうだった『ピングー』「ピングーの夢」
スイス発祥のクレイアニメ『ピングー』は、今でも新しいグッズが発売されることもあり、多くの人にとっておなじみの存在だろう。南極に住むペンギンの男の子・ピングーとその家族や仲間の日常がユーモラスに描かれる、観ていてほっこりする作品だ。
そんな『ピングー』には有名なトラウマ回がある。「ピングーの夢」というタイトルだけで当時の恐怖を思い出す人も多いのではないだろうか?
このエピソードは、タイトルの通りピングーの夢の世界を舞台にしている。突然家の屋根と壁がUFOのごとく飛んで行ったり(ここで流れるBGMが地味に怖かった)、ベッドが伸び縮みしながら馬のように動き出したり、シュールな展開は続くものの途中までは大したことはない。問題は後半部分である。
ピングーが走るベッドに乗って楽しんでいると、突如として氷の下からトドが姿を現す。ピングーから見れば怪獣のようなサイズ感で、おまけに妙にリアルなビジュアルのトド。そのトドは終始不気味な笑い声をあげながら、ピングーをもてあそび続ける。
冒頭で飛んで行った屋根を使って閉じ込めたり、ピングーを前脚でやすやすと潰したり伸ばしたり……さらには、逃げようとしたベッドとピングーの動きを止めてから、マットレスを鷲掴みにしてむしゃむしゃ食べ始める。もちろんずっと笑いながら。ホラー映画さながらの展開に、幼少期の筆者は思わず震えてしまったものである。
しかもこのトド、なぜか人間のような歯が生えており、大口を開けて笑うとそれがしっかり見えるのにもゾクゾクさせられた。たびたび目を剥いているのも異様な雰囲気である。
このエピソードを観てからしばらくは、かわいいピングーの姿を見るだけでも怖かったことをよく覚えている。何なら、自分自身がトドの悪夢を見たような気もする。それほどに子ども心にはショッキングなトラウマ回だった……。
■得体の知れなさが怖い『ニャッキ!』ニャッキが太陽を飲み込む回
小さなイモ虫・ニャッキの冒険を描くクレイアニメ『ニャッキ!』。マイペースで表情豊かなニャッキが生き生きと動く姿がかわいらしく、当時の筆者が大好きな作品のひとつだった。
本作には「ニャッキが巨大化する回」がいくつか存在するのだが、中でも特に印象に残っているものがある。そのエピソードではまず、ビルの屋上にいたニャッキが突然巨大化し始め、そのビルを押し潰してしまう姿が描かれる。
怪獣のようになったニャッキだが、自分に何が起こっているかをまるで理解していないため、いつものように無邪気に遊び始める。観覧車で玉乗りをしてはしゃぐシーンでは、かわいいニャッキの動きに合わせて街がしっかり破壊されていた。
ニャッキの巨大化はそれだけでは止まらない。最初は3階建てビルほどの大きさだったはずが、東京タワーを邪魔に思ってしっぽだけで叩き潰すほどになり、やがて地球よりも大きくなって宇宙進出。月をかじって欠けさせ、土星の輪っかをかぶり……と、スケールが段違いの遊びをしていた。
最終的には太陽を丸呑みするのだが、なんと体内でどんどん太陽が膨れ上がり、ニャッキの身体はぱんぱんになった後で爆発してしまう。まさかの死亡シーンが出てきて、そういう意味でも恐怖を感じた回だった。このすぐ後、ニャッキの夢オチだと判明したときには心底ほっとした。
このエピソードはニャッキのかわいさはいつも通りだが、だからこそ無邪気に破壊を繰り返していて恐ろしい。というかシンプルに、怪獣サイズのイモ虫を想像するだけで怖かった。ニャッキにはずっと小さいサイズのまま楽しく冒険していてほしいものだ。